思考

「不幸な人」のメカニズム…ネガティブに集中「フォーカシングイリュージョン」のカラクリ

発行責任者 (K.ono)

 自分の人生が幸福か不幸か、それはどのようにして決まるのだろうか。

「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う。」

 日本は世界の「幸福度ランキング」では常に50位程度で、先進国の中でも「幸せ」と感じる割合が少ないことで知られている。

 周囲の連帯感を重視する息苦しさ、国内全体の一人あたり賃金の停滞、長引くデフレ、高齢化など、各種の貧困など、日本を取り巻く環境は確かに明るくない。大人になるまでの生活や家庭環境で苦労した人も少なくはないだろう。

 悩みや「自分が不幸だ」と感じる部分は人それぞれで、だからこそ課題を総合的に解決するのはなかなかに難しい。「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う。」とはトルストイ『アンナ・カレーニナ 第1編』の言葉であるが、まさにその通りだろう。

 つまり、国や政府に「ほぼすべての人民の幸福度を上昇させる施策は極めて難しい」ということになる。つまり、ある程度は自分自身で状況を変えていくしかない。

 本当に不幸な人はこの世にも、日本にもたくさんいる。それは全く否定しない。ただ「ネガティブな思考により、実態以上に不幸を背負いこんだ人」も多くいる、という考え方も存在する。

「フォーカシング・イリュージョン」

 それが、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマン氏が指摘する「フォーカシング・イリュージョン」というものだ。ロルフ・ドベリ氏の著書「Think Clearly」(サンマーク出版)でも紹介されている。

 例えば、ある人が学生時代に人間関係が極めてうまくいかなかったという過去があったとする。現在は30代中盤、優しい妻と娘に恵まれ、会社員としての仕事もさほど楽しくもないが不満もなく、収入は住んでいる県では明らかに高い方だ。

 他人からすれば「現在は30代中盤、優しい妻と娘に恵まれ、仕事もさほど楽しくもないが不満もなく、収入は住んでいる県では明らかに高い方」という点に注目し、うらやましがる人も決して少なくはないだろう。

 しかし、当の本人の幸福度は信じられないほどに低い。それは「高校時代に人間関係が極めてうまくいかなかったという過去」に囚われているからだ。当時感じた孤独などを思い起こし、それに断続的に支配されるということである。

 つまり「人生における特定の要素に意識を集中させると、その要素が人生に与える影響がより大きなものに感じられてしまう」ということだ。今の幸せより過去の問題に“フォーカス”し、だからこそ不幸な思いに駆られてしまう……これが「フォーカシング・イリュージョン」と呼ばれるものである。

特定の要素を過大評価しないこと

 この人でいうなら、人生の中で高校時代は3年ほど。人生100年時代と考えればわずか3%のことである。しかも今は幸運な家庭を築いていると考えれば、大したことがないと思われるだろう。しかし、人間の多くは「悪い要素」に目が行きやすくできているようだ。

 人間にはその傾向があることを知り、全体を俯瞰し、特定の要素を過大評価しないことが重要

 人生の多くの場面でしてきた選択、そしてその結果と生じる後悔……人間はその瞬間瞬間を重要視してしまうもの。ただ、人生全体で見れば大抵はとるに足らないもので、距離を置いて見ることができれば、それまでとは異なる思考になることも可能ではないだろうか。

 多くの人にとっての「フォーカシング・イリュージョン」はお金や資産に関することかもしれないが、これも相対的、かつ限定的なものだ。こうした人間の仕組みを認識すれば、生き方に良い変化をもたらすかもしれない。
(文/谷口譲二)