思考

人への思い込みが現実に…「ラベリング理論」による他人の変化に気をつける

発行責任者 (K.ono)

 職場において「あの人はなんでも要領よくこなすから良くできる」、逆に「あいつはこの前の会議でミスをしたから、頼りなくてあまり重大な仕事は振れない」と、思い込みやイメージで人に接することはないでしょうか。

「ラベリング理論」

 普段からよく会話をしていて、人柄や性格まで知っているくらいの親密な仲であればイメージだけで接するなんてことはなくかもしれませんが、人間というものは、相手のことをよく知るまでは、自分の頭の中で相手のイメージを作ってしまいがちです。

 それはもちろん職場だけの出来事ではなく、例えば「彼はこの前の待ち合わせに遅刻してきたから、ちょっとだらしない」などといったように、友人同士や恋人同士でもよくあることでしょう。

 ところが、その勝手な思い込みによって、本当に相手がイメージ通りの人になってしまうことがあります。こういった状況は、アメリカの社会学者であるベッカーが提唱した「ラベリング理論」に当てはまるかもしれません。

 ラベリング理論とは、「社会的な規範に対する違反行為を『逸脱』と定義し、その行為をした人を『逸脱者』としてラベル付け(レッテルを貼る)することによって、さらなる逸脱を生み出すこと」だと、心理学者である内山絢子さんの著書「面白いほどよくわかる! 犯罪心理学」(西東社)の中に記されています。

「予測の自己実現」

 また、これは心理学でいう「予測の自己実現」という現象に近いと、内山さんはいいます。「予測の自己実現」とは、相手の第一印象が確立すると、その印象に合わせた対人認知が行われ、相手もそれに応じた言動をするようになるため、予測が実現されるように誘導されることをいうのだとか。

 プラスなイメージなら良いかもしれませんが、マイナスなイメージとなると少し厄介です。「頼りない」という印象を持ちながら接していると、知らず知らずのうちに「大丈夫、私がやるから」と重要な仕事を任せなくなっていきます。

 本人は頑張ろうと意気込んでいたのにもかかわらず「どうせ頼られていないから……」とモチベーションが下がり、どこか詰めの甘い処理や危なっかしい仕事をしてしまうようになるかもしれません。

 あるいは、「だらしない」というイメージを持ちながら相手に接していると、実はこれまできちんとしていたのに、だんだんと遅刻が増え本当に怠惰な生活を送るようになってしまう……といったようにです。

 また、「要領よくこなすから良くできる」といった一見プラスに思えるイメージを持っていても、それに合わせてあまりに期待した言動をとると、本人にとってはプレッシャーやストレスになり、かえってやる気を損ねる可能性もあるかもしれません。

「相手が自分に持っているイメージをひっくり返してやろう」との熱量を持ち、自分にとってプラスに働くよう持っていける人であれば問題ないのかもしれませんが、全員がそうとは限りません。

 前述のように、負のループやマイナスの方向に陥ってしまう場合があるのです。

 相手が予測の自己実現をしやすい人なのか、それともイメージを払拭できるよう動ける人なのか、どちらのタイプであるのか見極めるのは至難の業です。となれば、接する側の人間がそういった状況にならないように意識するのがいいのではないでしょうか。

 例えば部下や子どもを、ひとつのイメージにとらわれず育てたいと思っているのであれば、本人が「こう思われているかも」と思ってしまうような言動をとらない、態度に出さないようにすることが、効果的な教育方法かもしれません。
(文/名古屋譲二)