社会

『ジョブ型雇用社会とは何か』メンバーシップ型だけでは成り立たない日本社会の変革

発行責任者 (K.ono)

 日本は長らく「企業社会」といわれる社会構造が続いています。

 社会が企業を中心として構成されていることを表す言葉ではありますが、企業の慣習や時間的制約に家族の生活やその他の余暇も合わせたり、特に男性にとっては企業の中でのコミュニティこそが“居場所”という状態になりがちです。

日本企業の社員は「メンバーシップ型」

 逆にいえば、その“居場所”を失うこと――例えば定年退職などで――で、社会から脱落する、ないしは孤独感などが強まることになります。こうした状況が無縁社会や孤立無援を生み、孤独死などにつながるという意見も少なくありません。

 日本企業の社員に対する考え方はいわゆる「メンバーシップ型」が多いです。社員を会社のメンバーとみなし、職務内容を固定せずに採用、雇用するというものです。これが高度経済成長までは社員の配置転換によって人を必要以上に増やさず、場合によってアルバイトなどを駆使することで失業率を抑えることに成功しました。この流れは海外では見られなかったものです。

 ただそもそもメンバーシップ型は、その企業に順応する忠誠心やコミュニケーションを上手にとったりするスキルが、秀でた一芸よりも重要視されます。これはつまり「プロよりもコミュニティの一員」であることが大事ということです。その社内のさまざまな部署に配属され、柔軟に対応する総合職、つまりは「ゼネラリスト」が是とされました。

 バブル崩壊、情報社会の隆盛や海外の発展により、日本企業は終身雇用の不透明さ、退職金消滅の可能性なども相まって「ただその場をうまく回せるだけのゼネラリストは役に立たない」という意見も増えてきました。IT化によって得意技のないゼネラリストの仕事は減少の一途を辿るといわれています。

『ジョブ型雇用社会とは何か』

 こうした変化によって、ただ企業社会に身を委ねるだけの生き方にも疑問の声は増えてきました。海外の主流である、あらかじめ業務が決まっていてその範囲に関し給与が支払われる「ジョブ型」、つまりは専門性が高かったりスペシャリストといわれる人たちが多い構造への注目度が増すのも当然といえるでしょう。濱口佳一郎氏の著書『ジョブ型雇用社会とは何か――正社員体制の矛盾と転機』(岩波書店)では、この点について詳しく論じられています。

 ジョブ型は「ある部署に必要な人間をピンポイントで採用する」という形をとるため、潜在的な能力(メンバーシップ型はこちらを採用する傾向)よりも即戦力となる人物が求められやすいです。長く同じ会社で働かせることで能力を伸ばすという形とは真逆の文化であり、能力を見られるという点で残酷です。この文化に日本人が耐えられるのか……浸透するにはそれなりの時間がかかるかもしれません。

 これまではメンバーシップ型でもよかったものが、グローバル化やITの進化によって揺らいでいます。昔ながらの企業はこれまでのように男性社員に賃金を十分に支払えなくなり、そのパートナーも働くことになります。大抵はどちらも企業から給与やアルバイト代を得る形になるでしょうから、2人ともが企業社会と直接的につながるという形に。

「セカンドシフト」と呼ばれる問題

 そして、共働きであっても女性側が子育てや家事の負担が重くなる、「仕事の後に仕事」という状態になる「セカンドシフト」と呼ばれる問題が生じます。これに関しては男性が子育てに積極的になるという解決策はありますが、男性の育休への理解がない会社も少なくありません。

 こうした企業社会の揺らぎは、多方面に大きな影響を及ぼします。会社に属する人が大多数の日本社会の中で、採用や企業の社員に対するアプローチや考え方を知識で入れておくのは重要ではないでしょうか。
(文・佐田剣星)