時事

インフルエンサー炎上のメカニズム…「ポスト真実」を知る重要性

発行責任者 (K.ono)

 近年、SNSやYouTube、オンラインサロンなどを利用し、その言動で注目を浴び影響力を持つ「インフルエンサー」という類の人々が社会に浸透しました。

総じて“頭のいい人”が多い

 インフルエンサーとなる人のキャラクターもさまざまで、全くの素人から有名になる人やもともと知名度のあるタレント、経営者、作家、大学教授など実にバリエーション豊か。各々の得意分野を中心に語ったり、社会全般に意見を語ることでファンを集めています。

 一方で、そうした人々の言動が“炎上”する場面もかなり頻繁に見受けられます。極端な意見、事実誤認、差別的言説など炎上の「種」もまたさまざまですが、大衆を逆なでするような言動をしてしまうインフルエンサーを、読者の皆様も何人か頭に思い浮かぶのではないでしょうか。

 しかし、全員ではないものの、インフルエンサーには「立派な経歴がある人」「頭のキレる人」「非常に広範な知識のある人」「物事に面白い解釈ができる人」など、総じて“頭のいい人”が多い印象があります。誰もが知る有名な経営者やインテリなタレントなどが当てはまります。

 こうした人たちは大衆よりも頭が回る(ように見える)人であり、なぜこうした人たちが時に「なんでこの人があんな発言を」「炎上するって誰にでもわかるのに」という類の発言をするのでしょうか。

 もちろんそれが「炎上(=注目)目的」の意図的なものである可能性もあります。しかし、時に炎上があまりにも大きくなりインフルエンサーとしての活動が難しくなるリスクも生じます。「セーフとアウトの線引き」が難しいということもあるでしょうが……。

「ポスト真実」

 ここには現代の、特にインターネット社会だからこそ出現した言論の特徴的な傾向があるのではないでしょうか。それが「ポスト真実」と呼ばれるものです。

 ポスト真実というのは政治用語で、2016年の「今年のことば」にも選ばれた重要な言葉です。オックスフォード英語辞典によれば「世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力があるような状況」と訳しています。

 真実や事実よりも、自分の特徴的な考えを押し付け、それが逆に強い言葉となって共感する人々に「刺さる」ことでファン(信者)が増加します。ファンはその人物に完璧さや信念、徳といったものを感じるのです。こうしたインフルエンサーの“引力”は客観的な事実よりも強く、インターネットで情報簡単に得ることができる時代で加速している印象があります。

 また、ファンの多くはこうしたインフルエンサーによる耳障りのいい発言を「信じたい」という欲求を持っています。人は自分にとって都合のいい情報を集めてしまう傾向にあるからです(固着性ヒューリスティック)。インフルエンサーも自分についてくる人々がどういった層かを掴んでいますので、彼らにとっての都合のいい情報や論理だけを抜き取って発信します(チェリーピッキング)。

ネット上の“オープンな環境”がベース

 結果として、ファンとインフルエンサーの間で“のみ”受け入れられる情報の授受が生まれる世界観が構築されますが、その情報や言論の多くもしくは一部は、事実や真実、社会通念とは関係のない「ポスト真実」ですので、時に世間一般にまったく受け入れられない場合もあり、インフルエンサーにとっても思わぬ炎上に発展するという結果になる場合もあるのです。

 炎上してしまったインフルエンサーに対し、時折「周囲にイエスマンしかいないと増長してこういうことになる」「信者にヨイショされて調子に乗っているからだ」といった批判がなされますが、単に増長しただけではなく、戦略としてのポスト真実が世間とズレすぎた結果と考えることもできるのです。

 こうしたファンとの関係を自分の部屋でしゃべっているだけなら特に問題にもならないはずですが、現在はファンを集め増やす前提でネット上の“オープンな環境”がベースです。現状の仕組みではなかなか解消されない問題かもしれません。独自のプラットフォームなどクローズドな場を作るか、ポスト真実的な言論を意識してやめるか……どちらもファンが増えづらくなるのは確実で、難しいところです。
(文/河合譲二)