社会

陰謀論と脱魔術…「合理と非合理の共存」現代社会は短すぎる?

発行責任者 (K.ono)

 東京五輪開催、新型コロナウィルス蔓延とワクチン供給、自民党総裁選や総選挙、ウクライナ戦争など、2021年~2022年は極めて大きな出来事が相次いでいます。

 ここまでビッグイベントが続けざまに起こると、一般大衆がついていくのが大変で、出来事一つ一つを落ち着いて見つめることが困難なりがちです。そんな年や時期はそうそうあるものではなく、やはり特別とはいえるのですが……。

「陰謀論」や「超常現象的な思考」

 起こった出来事を断片的、表面的にしか捉えられないような状況になると、それらに関し氾濫する情報の真偽判断も難しくなるものです。誤った情報が拡散する「インフォデミック」が問題視されたのは、その象徴と言えるでしょう。

 そんな中で蔓延しがちなのが「陰謀論」や「超常現象的な思考」です。

 現代は非常に合理的で、インターネットの隆盛によってどんどん「隠し事」ができない世の中になっています。例えばどこかのテレビ局が、傍目にはわからないレベルの巧妙な偏向報道をしたとしても、一部の気づいた人たちがSNS上で「あれは偏向報道だ」と指摘すれば、それが一気に広がります。結果的に多くの人が「ホントだ、偏向報道だ!」となり、その認識が浸透する形になります。

 こうした科学的な合理化や具体的に真実や現実が明らかになりやすい世の中では、超常現象や非現実的な出来事から人は離れるものです。ドイツの偉大な社会学者マックス・ヴェーバーがいうところの「脱魔術化」と呼ばれる考えです。

 一方、合理化が強い世の中では利益のみを追求する殺伐とした状況にもなるため、逆に非科学的なもの、非合理的なものに世間の関心がいく傾向もあるのです。これが脱魔術化に対し「再魔術化」と言います。

「超合理社会」に対する拒否反応

 世の中は日に日に合理化になっており、IT技術によって進歩のスピードは急速に上昇しています。その一方、新興宗教やあり得ない陰謀論、超常現象などへの関心も決してなくなりません。これは人類の「超合理社会」に対する拒否反応とも言えるでしょう。

 一方「科学が、宗教など魔術的なものや陰謀論から置き換わったわけではない」とする考えもあります。作家の橘玲氏の著書『無理ゲー社会』(小学館)では、人間の進化の過程でそれぞれ別のネットワークが動いている、としています。同著では「目力がある、と感じる(そんなものはないのに)」など、合理と非合理が人間の中に共存している例を出して、同様のことはいくらでもあるとしています。

 その理由として「科学的な世界観がせいぜい人類史の0.01%しかないこと」が大きく、長い進化の過程で染みついた人間の本質はそう変わらないとしています。

 今回のコロナ禍におけるインフォデミックが起きたり、オウム真理教など危険な新興宗教が囁く陰謀などに惑わされ大きな事件が起きるのを見て「なんでこんな情報や陰謀を信じるのか」と多くの人は思うものですが、そうした動きも、多くの人間の本能ではあるのです。

 現代の超合理社会を考えれば、それでも陰謀論を信じる世の中は「脱魔術化と再魔術化」というよりは「科学と非合理の共存」という橘氏の考えは納得のいくものです。

 誰もが陰謀論や非科学的なものに魅了される瞬間はある……それが社会的なトラブルや問題を起こす可能性があることを頭に入れておくのも大切ではないでしょうか。
(文/谷口譲二)