昨年あたりから大ブレイク中のネット掲示板「2ちゃんねる」創設者である西村博之(ひろゆき)氏。彼は「生活費が少ない」ことを自身で証言しています。
貯蓄や資産形成ができない理由
昨年のテレビ番組等で「生活費は月5万円くらい」と発言して今年大いに話題になりました。YouTubeのライブ配信の“投げ銭”やテレビ出演、書籍に会社への投資など多方面から収入を得ているひろゆき氏ですが、生活スタイルは学生時代と変わらないとのことです。
ひろゆき氏は「収入が増えると生活水準を上げる人がいるが理解できない」とも発言しています。確かに世の中のお金持ちは「お金を使わない」というのが基本線であり、傍目にはお金持ちに見えない人も多く、古ぼけた車や家に住んでいる場合も多いです。お金持ちであることを周囲に知られることのデメリットもあるために“隠す”意図もあるのでしょうが、消費を最小限にすることの重要性を認識していることもあるでしょう。
しかし、それが正論だとしてもなかなか実践できない人もいるはずです。金の管理が苦手だったり浪費癖があったりとさまざま理由はあると思われますが、貯蓄や資産形成ができない理由の一つが「最新性愛症」と呼ばれるものです。
最新性愛症は、文字通り「新しいものに飛びついてしまう、価値があると感じてしまう」人間の傾向です。
例えば最新型のiPhoneは、発売日に長蛇の列が並びますし、評判の有料ネットサービスやサブスクはとりあえず登録してしまう人は多いはずです。大金が手に入れば、高級外車の最新モデルをすぐ新車で購入してしまうでしょう。
「アーリーアダプター」
「新しい→価値がある」という考えは間違っていない部分もあります。ある製品であれば、過去の評判や機能をブラッシュアップするわけですから、より洗練されていくのは間違いないでしょう。あとは個々人の好みということになります。
ただその「価値の大きさ」はどうでしょうか。購入から1年や2年価値があったとしても、10年後まで価値があるのかと言えば疑問のものがほとんどではないでしょうか。最新の高級外車も、10年も経てば旧タイプ扱いです。
今は変化が激しい世の中で、iPhone1つとっても毎年最新版が登場し、すぐに古くなります。「常に最新を」と求めていたら、毎年新機種を購入することになります。こうした「アーリーアダプター」の存在は消費市場やトレンドに大きな影響を与えますが、当人たちの多くはなかなかお金が貯まっていかない場合も多いはずです。
最新のものは価値がある、というのは合理的に見えて、実は単なる「偏愛」や「偏執」であり、個々人の生活全体で見れば、決して合理的ではないという見方も強くなっています。
「新しい=有益」という考えは…
消費者のニーズというのは「そもそもあるもの」という考えが一般的ですが、経済学者のジョン・ガルブレイスによれば「売れる商品というのは、ニーズを発見したのではなく、ニーズを新たに作り出したもの」としています。つまり、もともと当人が欲していたものではなく、消費を“呼び起こされる”ことに近いということです。
そう考えると、新たな商品を義務かのように追い求めるのは、合理性に欠けるばかりでなく踊らされているということになります。10年以上価値がある資産といのは、そうそう存在しないのですから……。
少なくとも「新しい=有益」という考えはできる限り捨て去ることが、自分の金銭を必要以上に失わない最低限の志向と言えるかもしれません。無論、本当に価値があるか、長く価値が持続するかどうかを熟考し、判断することができれば何も問題ないでしょう。
最新技術の役割を過大評価する日々から抜け出すのは、人生を充実させるヒントになるはずです。
(文/谷口譲二)