思考

自分の意見を通す方法…「理由」の力を活かす“カチッサー効果”

発行責任者 (K.ono)

 ある程度充実した人間関係は、生きていく上でもっとも重要な「資本」の1つです。

「カチッサー効果」

 そもそも人間の幸福は人間関係や社会とのつながりがなければ基本的に生み出されないものです。年収の高さや自尊心も、結局は近しい、あるいは世間の人との相対的なものであり、自分1人では成り立たないものと言えます。自分という人間を誰かしら他者が認識している状態が大前提と言えるでしょう。

 しかし、人間関係が重要であるからこそ、その点に悩んだり、他者との比較でしか自尊心を持てない人もたくさんいるのが現実です。インターネットを中心にテクノロジーが発展したことで、直接的に関係を持つことに消極的な人も増えています。

 とはいえ、ほとんどの人は孤独では生きていけないものです(稀に平気な人もいるようですが)。仕事の面で考えても人間関係を円滑にできるのならばそれが一番と言えるのではないでしょうか。

 そんな人間関係の潤滑油になる考え方、人間の傾向に「カチッサー効果」があります。

 カチッサー効果は、人とのコミュニケーションにおける「理由」の重要性について説いたものです。ハーバード大学の心理学者エレン・ランガーの実験により出てきた考え方です。

 これは、仮にコピー機の列に並んでいる際に「先にコピーをさせてもらえませんか」と前の人たちに言っても誰も譲ってくれず、言い方を「先にコピーをさせてもらえませんか、急いでいるもので」と、「急いでいる」という“理由”を添えると、ほとんどの人が譲ってくれたというものです。また「先にコピーをさせてもらえませんか、何枚かコピーがとりたいので」と、まったく理由になっていないものでも「理由があるだけ」で多くの人が順番を譲ってくれたといいます。

 これは目的に「×××なので」と理由を付け加えただけで正当性が出ることを表しています。また、お願いを聞く相手も「理由があるだけで気持ちが落ち着く」ことがわかります。

すぐには「理由が見出せない」

 根拠があろうがなかろうが、理由を追い求めるもの、それが人間というもののようです。これは会社や社会生活のあらゆる面で絡む話と言えそうです。

 会社経営者であれば、社員や部下をけん引するためにさまざまな言葉を投げかけますが、そこにも明確な理由が必要です。ラーメンチェーンがただ「ラーメンを売れ」と言ってもスタッフに響くわけではありません。「お客様においしいひと時を楽しんでもらうために、ラーメンを売れ」だと、少なくとも前者よりは響くものがあるのではないでしょうか。そうしたメッセージの積み重ねが業績に影響することも大いにあるでしょう。

 同僚同士、友人関係でもそれは同じです。「親しき中にも」ではないですが、常に理由を添えてお願いや主張をすることで、柔らかな雰囲気や安堵を相手に与えることができるのは否定できません。それが続けば、自身の信頼性も増しているのではないでしょうか。

 また、世の中にはすぐには「理由が見出せない」もあり、そうした出来事が注目される期間は長い傾向もあります。無差別殺人事件が起こった時には「なぜ」という疑問から本人の内面も含め憶測や報道が延々と続きます。性犯罪被害者に対し「被害者も悪かったのでは」という論調が出たり、山で少女が行方不明になれば「親がやったのでは」という声が出るのは、「何も悪いことをしていないのにそんなひどい目に遭うわけがない」「悪いことをすれば悪いことが起こる」という公正な世の中を求めるからです。「公正世界仮説」と呼ばれるものですが、これもまた「理由のない出来事」に対する潜在的な不安が影響しているのではないでしょうか。

 いずれにせよ「理由」の力は決して無視できるものではありません。人間関係を円滑に、と考えるのであれば、カチッサー効果を意識することも大切かもしれません。
(文/谷口譲二)