14日、Webメディア「ビジネスインサイダージャパン」の記事が話題になっています。
記事のタイトルは【マイナビ、青山ら大手が就活マナー刷新。「男女別」「化粧・パンプス強要」は「時代に合わない」】というもの。就活における“身だしなみ”が「男性向け」「女性向け」の男女二元論に支配されており、多様性に欠けていると以前から言われていました。
第一印象がモノを言う就活
また女性に向けられた指南には「美しさ」を求めるものが多く、パンプスや化粧などに言及するモノもあったとか。多様性やジェンダーの観点から、今後はノーメイクや服装も自由度が高まるのではないか、すでに動き出している企業もあるとのことです。
しかし「ノーメイクOK」になったところで、実際にノーメイクで面接に臨む人は少数派でしょう。客観的な見た目の“印象”というのはそれだけ大きな武器になり、身だしなみや容姿の美しさはそれだけで「武器」になる点は否定できません。第一印象がモノを言う就活で、なかなか変化は起きないのではないでしょうか。
2005年に発売された竹内一郎氏の著書『人は見た目が9割』(新潮社)が、一時大きな話題になりました。
内容には賛否両論があるようですが「人間は非言語コミュニケーションが9割」であり、見た目や雰囲気が人間関係や社会生活において重要だという点は否定しづらい部分があります。単純な顔立ちやスタイルだけでなく、清潔感や雰囲気も重要でしょう。
とはいえ、恵まれたルックスというのは、遺伝も含めその人の「才能」です。もっともわかりやすい才能、人との差異とすら言えるかもしれません。最近は“ルッキズム”、つまりは外見差別や外見至上主義という形で批判の対象にもなりますが、その線引きも簡単ではありません。実際に美容整形やダイエット、男性ならヒゲ脱毛やAGAの市場が極めて大きいことからも、日本人の外見信仰は強いことが理解できます。
「コンプレックス商売」や整形
こうした外見は、広告戦略にも数多く使われています。高級化粧品に限らず、カジュアル衣料品のCMに有名女優が出演する例は枚挙に暇がありませんが、これは「美しい女優が紹介する商品だから」と、商品そのものではなく女優出演という目立った特徴で購買につなげる手法であり「ハロー効果」と呼ばれるものです。
こうした美しい人、カッコイイ人の商品が売れるのは、その人に“なる”、つまりは「擬態」への欲求であり、ハロー効果はそうした心理をすくい上げるということです。ハロー効果は何も美醜に限るわけではありませんが、美醜を使う手法がポピュラーなのは事実でしょう。
外見的に美しく、かっこよくなることは多くの人が根源的に求める欲求であり、だからこそダイエットなどを扱った「コンプレックス商売」や整形の決断をする人が多いのです。
さらに、こうした外見に関して、どれだけ「経済的差異」があるのかの指摘もあります。作家の橘玲氏の著書『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮社)では『残酷な「美貌格差」』としてこの点を論じています。
美人は8%収入が多い?
橘氏は米国の経済学者ダニエル・ハマーメッシュの『美貌格差―生まれつき不平等の経済学』(東洋経済新報社)での研究を紹介しています。同著では「平均より容姿がいい女性は平均の女性より8%収入を多く稼ぐ」、「平均より下の容姿とされた女性は、平均の女性より4%収入が少ない」という容姿による格差が確かにあることを紹介しています。日本の大卒生涯収入3億円で計算すると、平均との比較で美人は生涯で2400万円得をし、不美人は1200万円損をすることになります。その差は3600万円とかなりのものと言えるでしょう。
ただ、意外なことに男性の結果はさらに残酷です。同じ実験では「平均より容姿が上の男性は平均の男性より4%収入が多い」ことがわかったようです。この実験に限れば、男性は女性よりも“イケメン”が武器にはなっていないことがわかります。
しかし、これが「平均より下のルックスの男性」になると話が大きく変わります。なんと「平均の男性より13%収入が少ない」という結果が出たのです。この結果からは、女性よりもルックスのダメージが大きいことがわかります。
この結果は、女性より男性のほうが就業人口が多い点なども影響しているでしょうが、橘氏は、女性より男性のほうが犯罪率が高いことや、若者のほうが暴力犯罪をする割合が高い点などに注目。例えば採用する会社側が「暴力的、威圧的な雰囲気の男性を避ける傾向」や「顔に暴力性が強いと感じられる人は採用されない傾向」についての可能性も語っています。
もちろん橘氏も「人相の悪い若者がすべて危険というわけではない」としていますし、やや極端な論調ではあります。一方で研究の一つとして無視できるものでもないのが現状です。
現代社会が、外見がかなり重視される世の中であることは否定しづらい部分があり、例えば採用する企業側としても収益性が高いのは事実でしょう。資本主義や他者比較がある限り、大きな変化はない領域かもしれません。
(文/谷口譲二)