娯楽

タレントも門外経営者もテレビコメンテーター不要?「権威」のワナ

発行責任者 (K.ono)

 普段、何気なく見ているテレビのワイドショーなどで、こうした思いに駆られることはないでしょうか。

「なんでこのアイドルタレントが北朝鮮問題について難しく語っているんだろう」

「お笑い芸人が時事ニュースのコメンテーターをやっているのはなぜか、殺人や悲しい事件にコメントするのはなぜか」

IT社長が政治経済を語るのはOK?

 こうした疑問を抱いた視聴者は、ことテレビにおいては多数派かもしれません。それだけテレビの「芸人コメンテーター」はあからさまにキャスティングが不可解であり、政治経済に関してうかつな発言をして炎上することも少なくないです。

 しかし、これが例えば「インターネットの有名サービス創業者が政治経済のコメンテーターとして政治を語る」だったり「ラーメンを20店舗展開する経営者が気候変動問題を語る」だったらどうでしょうか。案外すんなり受け入れる人も少なくないのではないでしょうか。

 前者はインターネットサービスやITの歴史の変遷などにおいては多様な知識と意見を持っているでしょうが、政治に関しては“専門家”とはいえないでしょう(政治の研究家でIT社長とかなら別ですが)。また、後者は飲食業界ではやり手といえますし、食品問題や流通などに関してはプロ中のプロです。しかし、気候変動や地球温暖化については……何ともいえません。

 要領のいい人なら、番組出演前の打ち合わせ後に知識を集めることで無難にコメントすることができるでしょう。しかし、もちろんそれは「専門家の深い意見」ではなく、専門家から見ればその“浅さ”は一目瞭然といえます。

 明らかにお門違いのタレントコメンテーターは別として、こうした「別の専門家」は世間からコメンテーターとして許容される機会も多く、何といっても説得力が生まれやすいのです。

「頭がいい」「胆力がある」などのイメージ

 なぜ説得力が生まれてしまうのか。それは「権威」によるものです。ある分野で特徴的な実績を残し名も知られた人物、メディア出演や著作が多い人には「頭がいい」「胆力がある」などのイメージ(もしくは事実)が植え付けられ、まったく関係ない分野での発言も受け入れられやすくなるのです。

 テレビCMなどでも同じでしょう。有名なプロ野球選手や人気女優が日用品やゲームのCMに起用されますが「製品・サービスの信頼性」という意味では、その分野の(特に世間一般に有名ではない)専門家が語るほうが効果はあるはずです。しかし購買につながるのは前者。これもまた、突出した人への憧れからくる信頼性が大きいです。これはハロー効果ともいいます。

 こうした「権威」はマーケティングや自己プロデュースの面で非常に大きな効果を発揮します。最近よく言う「インフルエンサー」もこの点を非常に重要視しているように思われます。

 その一方で「権威がある人物の意見を無条件で聞き入れる」というマイナス面もあります。もっとも身近なのが「取締役」「部長」など肩書がある人物の意見をそのまま受け止めてしまう社員との関係でしょう。こうした職場は成長が停滞しがちです。

 航空会社などでは、機長が仮にミスをしていた場合、それが命にかかわることであっても「権威」によって副機長が注意できず、大惨事につながる可能性もあります。だからこそ航空会社では肩書や権威にとらわれずミスや矛盾を指摘できるようにする「クルー・リソース・マネジメント」の教育を受けています。重責を考えれば当然でしょう。ただ、一般企業の多くはそうした教育からは遠い状況にいるのが実状です。

 個人は簡単に「権威」の大きさに引っ張られてしまうもの。だからこそ肩書が大きく、かつ権威的な人物に対してこそ自分からしっかりと意見を考えたり、伝えたりすることが重要といえるかもしれません。
(文/谷口譲二)