2021年、大きな注目を浴びたのが「親ガチャ」という言葉でした。
「子は親を選べない」という意味を、スマホゲームなどの「ガチャ」と似たものとして若者の間で生まれた言葉です。ネット上ではこの言葉に関する議論が巻き起こりました。
「親ガチャ」は大きく言えば「運ガチャ」
親世代からの「不謹慎」という声もあれば「それが本音」「愚痴の範疇で重い意味はない」という若者の声もあるなど意見の分断も起こりました。
「親ガチャ」は大きく言えば「運ガチャ」です。生まれた環境の運によって人生が大きく変化するのは間違いありませんし、愛情の強い親、弱い親という差や貧富の差、遺伝による容姿や才能の差も確実に存在します。子どもは義務教育以外は平等ではないというのが現実でしょう。
世の中は残酷なもの……と考えれば「親ガチャくらい愚痴らせてほしい」という意見があるのも致し方はない部分があります。問題はそうした考えや悲しい愚痴がなぜ生まれてしまうのかということです。
今年話題になった書籍に『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)があります。米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の書籍で「現在の米国の格差拡大は、能力主義によるものだ」という考えを詳細に語っています。
現在の米国、そして日本もですが「自分の才能と努力で成功できる」という考え方が浸透しています。どんな生まれ、どんな境遇であっても平等に教育は受けられ、努力をすれば成功できる公正な世の中であると。
ただ、それは裏を返せば「成功できなかった、貧しい結果になったのは本人の努力不足によるものだ」と断じることにつながります。結果、成功者は成功できなかった人を自然と見下す構図になるのです。
米名門大学は4年3000万円の学費
ただ、そういった成功が「自分の努力や勤勉」によって成り立つとは必ずしも言えないとしたら、どうでしょうか。
米国で有名なハーバード大学やスタンフォード大学は4年間で3000万円近くの学費が必要で、そんな学費を支払える層はそもそも限られます。また、その上で本人の知能ならびにそういった大学に入学させるための教育にお金もかかるわけで、親のそもそもの資産や教育意識なども大きく影響するでしょう。そうした家庭環境や本人の知能はそれこそ「親ガチャ」「運ガチャ」な側面が強いことがわかります。
サンデル教授は、能力主義が米国を支配し、成功者が成功できなかった人を(自然と)見下す文化ができあがったこと、グローバリゼーションの推進により行き場を失った白人労働者階級を中心としたポピュリストの怒りが、2016年の大統領選でドナルド・トランプ勝利につながったとしています。これを「ポピュリストの反乱」としています。
「ポピュリストの反乱」は米国ですが、日本も格差が拡大していることを考えれば、遠くない未来の話ではあるのかもしれません。「親ガチャ」という言葉の横行がその火種なのかどうか……。