「デイリー新潮」(新潮社)が26日、どのくらいの人がテレビ放送をリアルタイムで視聴していたのか、その割合を表す「総個人視聴率(PUT)」についての記事を掲載した。
6月第3週の週間PUTが過去最低を記録した、と記事にはある。民放プロデューサーが語るには「実は4月頃から、週ごとのPUTが発表されるたびにワースト記録を更新し続けている」とのこと。
数字上は未だ存在感は大きい
「テレビ離れ」といわれて久しい昨今だが、日本での存在感はいまだそれなりに大きかった。
昨年の東京五輪もそうだが、基本的にネット放送がないとはいえ、多くの競技で平均視聴率20%超を記録し、開会式に至っては平均56%と凄まじい数字を残している。
実際、2019年の時事通信社の調査では、日本人が平日休日問わず「180分以上」テレビを視聴している層が最多であることがわかっている。平日は約25%、休日は約35%が視聴しているということで「平日4人に1人」「休日3人に1人」がテレビを視聴しているということだ。
日本のテレビ局は、NHKも含めて地上波キー局なら5局。放送法などから新たなテレビ局ができるわけでもなく、公共の電波を少数の会社で独占しているのが現状だ。戦後から現在にかけ、新聞など紙メディアが明らかな衰退をする中で各テレビ局は「報道のリーダー」として今も君臨している。
しかし、その“視聴スタイル”は少なからず変化したようである。
テレビは「ながらメディア」に
特に若い世代は顕著だ。MMD研究所調べによれば、中学生、高校生の7割がテレビの視聴習慣があり、そのうち80%が「スマホをいじりながらの“ながら見”」だという。
この“ながら見”は日本に限った話ではなく、アメリカでも9割がテレビとスマホのハイブリッド視聴をしているという。今やテレビはラジオと同じく“ながらメディア”になっているというわけだ。
実際「テレビで話題の番組やスポーツの試合がある→Twitter等SNSトレンドを独占」という流れを多くの人が見たことがあるだろうし、友人たちとサッカーの試合を見ながらLINEやZoomミーティングで盛り上がるというのは、今や珍しくもなんともない。
ネット動画やライブ配信と比較しても、より大規模で注目度の高い番組を独占的に取り扱える日本の各テレビ局の威光や求心力は今なお健在というわけである。SNSの普及によりスタイルは変化したが、重要な番組やイベントにおけるテレビの需要自体はさほど大きな変化はないといえる。
一方で、日常的なニュースやワイドショーの必要性は、ネットに代替されてしまう点は否めない。大規模イベントなどは別として、普段のテレビを真剣に見る層は減少してしまうだろう。
「今はとりあえず強権力があるから大丈夫」でも
またNETFLIXを筆頭に莫大な費用を使えるネット企業の動画コンテンツに対し、地上波のテレビ局は到底及ばない。今後はテレビ局が外部の巨大企業から「コンテンツを購入する」ことも増えてくる可能性が大だ。
また、5Gによってスマホの通信速度が飛躍的に上昇し、より高精細な動画がスマホやタブレットで楽しめる。これによって、ハードとしてのテレビの存続も将来的には危ういものがあるだろう。
5G、さらに6Gの時代などが仮に来たとするならば、ヘッドマウントディスプレイを使った3D映像によるスポーツ観戦なども可能になるかもしれない。もし本当にそんな時代が訪れた時、テレビ局、特に日本のテレビ局がそれに対応できるのかは首をかしげざるを得ない。
2021年はフジテレビの外貨規制やステマ疑惑、他局も含め東京五輪とコロナ報道などで世間の不信感も強くなっている。「今はとりあえず強権力があるから大丈夫」という思考が見えるが、暗転する未来は、案外一瞬にして訪れるのかもしれない。
(文/田中陽太郎)