思考

「成功者のエピソード」に目を奪われる理由…無数の「失敗」に目を向ける

発行責任者 (K.ono)

 世界には輝かしい実績を持った人がたくさんいます。そうした実績の多くは非常に素晴らしいものです。

さまざまな「成功者のエピソード」

 映画やドラマに出演し、多くのCMにも顔を出すスター芸能人、画期的な製品やサービスを開発した企業家、次々と記録を打ち立てたスポーツ選手、ノーベル賞受賞者……世界にはさまざまな「成功者のエピソード」があります。

 そして多くの成功者が苛烈なまでの競争に勝利したことも、多くの人が認識しているところでしょう。そして成功の裏に数多くの敗者、もしくは失敗した死屍累々が控えていることも多くの人は認識しているはずです。

 しかし、あまりにも輝きが強すぎるからでしょうか、多くの人は成功者に目を奪われ、数多くの失敗した人に目を向けなくなる傾向があります。そして「同じように成功できるのではないか」と行動し、その結果多くの人が死屍累々の失敗者になるのです。

「芸能人やスポーツ選手、天才的な起業家が一握りなのは誰にでもわかるよ」という意見もあります。確かに華やかな世界の成功者はあまりにも突出しており、とてもマネできないと思わせます。容姿や肉体、頭脳など、生まれながらのギフトの影響が目に見えることも大きいでしょう。

 しかし、知らず知らずのうちに成功のみに目を向けてしまいがちなシチュエーションもあります。

 例えば投資です。正確には「投機」で、主に株の短期的な売買に関するものです。毎日チャートを睨んで生活するデイトレーダーが有名ですね。

裏には大多数の「失敗した人々」が

 こうした投資に関し、インターネットや書籍でも「1年で1億円儲けた方法」「FXで億万長者になる10の心得」などという謳い文句の宣伝が多く見受けられます。

 実際に投資・投機で圧倒的な結果を残した人はいますし、億単位で稼いだ――という文句も、詐欺行為でなければ真実でしょう。こうした人たちは決して有名人ではなく、もともと投資の才能があったり、ある日ものすごい幸運を引き当てた人たちです。

 そして、当然ながらその裏には大多数の「失敗した人々」がいます。投資に限らず、大きな得をした人の裏には数多くの損した人がいるもの。しかし、いわゆる「普通の人」が成功する様を見て「私もできるかも」と盲目的に考えてしまうのです。仮に投資をしなくても、書籍が売れれば情報を提供する側は儲けものです

 投資に限らず、あらゆる分野でこの「成功の魔力」は襲ってきます。それは、メディアが受け取る側にとって印象のいい成功者ばかりを紹介する点がやはり大きいです。うまくいかなかった人、つまずいた人にはなかなかスポットライトが当たりません。

 スイスのロルフ・ドベリ氏の著作『Think right』(サンマーク出版)でも「生き残りのワナ」としてこの点に触れています。同著ではこうした偏った成功者ばかりの情報が「成功の可能性を歪めて見せる」と記しています。

 とはいえ、何も挑戦しないことが推奨されるわけでもなく、それは人生を豊かにする選択ともいえないでしょう。同著でもその点は強調しています。大切なのは、人は「成功の確率や可能性を過大評価しがち」ということを「生き残れるかもしれない、成功するかもしれない」と思った時にしっかりと認識することです。そして、できる限り「失敗した人の物語」から学ぶべきでしょう

 日本マイクロソフトの元代表である成毛眞氏は「成功の9割は運」「俺の実力で成功した、と言っている奴がいたら気を付けよう」といったアドバイスを著書で語っています。やはり成功を掴むべくして掴んだ人はなかなかいないようです。
(文/谷口譲二)