思考

マイケル・ジョーダンは性格最悪?世紀の“大失敗”に学ぶ「身勝手」の罠

発行責任者 (K.ono)

 昨年の東京五輪で史上初の銀メダルを獲得した女子バスケットボール

 日本人には“遠い”スポーツというイメージだったバスケットですが、大きく歴史を変えた活躍だったと言えるでしょう。これを機に日本のバスケ人口にも影響が出てくるかもしれません。

「バスケットの神様」

 バスケと言えば、現役では長らくNo.1として君臨したレブロン・ジェームズ選手が有名ですが、日本人の知名度としては、やはり「バスケットの神様」と称されたマイケル・ジョーダンが一番でしょう。

 1984-1993、1995-1998のシカゴ・ブルズ時代で6度の優勝、五輪で2度の金メダル、数々の伝説的プレーや「JORDAN BRAND」に代表されるファッション、その存在はバスケの枠を超越した文化そのものであり「世界でもっとも成功したアスリート」の1人と言われています。そしてそれは事実に違いありません。

 エアと呼ばれた滞空時間の長いジャンプなど身体能力はもちろんですが、試合の結果が決まる最重要場面で平然とゴールを決め続けるメンタリティーや、圧倒的なリーダーシップ、負けん気の強さなどでも有名な人物です。そういった部分も彼のカリスマ性をより強くしたのでしょうが……。

 一方で、現役引退後の姿には批判的な意見も少なくありません。

 組織心理学の権威であり米ペンシルベニア大学ウォートン校教授であるアダム・グラント氏の著書『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)では、ジョーダンを「奪う人(テイカー)」として紹介しています。

歴代ドラフトでも屈指の失敗

 同著は「与える人(ギバー)」にこそ成功者が多いことを多数の事例を元に考察していますが「テイカー」はその反対で成功から遠くなる人を指します。現役引退後のジョーダンはまさにこのテイカーだったというのです。

 2000年、ワシントン・ウィザーズのバスケットボール運営部門の責任者になったジョーダンは、2001年にドラフト1位でクワミ・ブラウンを獲得します。非常に大きな期待をかけられた選手でしたが、結果は鳴かず飛ばず。歴代ドラフトでも屈指の失敗として名前が残ってしまうほどです。

 ジョーダンにとって、ブラウンが活躍できなかったのは「自分の選択の失敗」を表していました。彼は選手復帰後、チームメイトでもあったブラウン徹底的に罵倒します。

 ただ、その姿はバスケットの神様というにはあまりにも醜く映ったようで、ジョーダンの華々しいキャリアに影を落としています。

「失敗した投資を取り返そうと必死になっていた」

 さらにジョーダンは結果を残せないブラウンを頑なに使い続け、2010年にはジョーダンが所有するシャーロット・ボブキャッツで雇うまでしました。ジョーダンの彼に対する執着は想像以上のものだったのです。ボブキャッツに入った彼の出場時間がこれまでより大幅に延びるなど、ジョーダンの手心は相当だったと言われています。

 同著では、ジョーダンが「失敗した投資を取り返そうと必死になっていた」としています。これこそがテイカー的な側面であり、失敗を認めず、批判を聞き入れない唯我独尊の姿勢を問題視しているのです。プレイヤーとしてはそれが圧倒的なエネルギーに変貌しましたが、人を育てたり組織を動かしたりするのに最適とは限りません。

 ギバーは失敗を認め、他者の意見を聞き入れ、正しい道を模索するもの……“神”ですら誤るわけですから、ほとんどの人に通じる話ではあるでしょう。
(文/吉田賢了)