新型コロナウィルスの蔓延などによって、日本でも多くの企業に目まぐるしい変化がありました。
「いったん悪化してからよくなる」と発言する人
飲食業や観光業のように直接的なダメージを受ける企業もあれば、これまで以上に需要を伸ばしたユニクロやソニーなどの企業もあります。こればかりは世界的パンデミックという予測不可能な出来事による結果ですが、日本では今「格差」「分断」という言葉も騒がれるようになりました。
ただ、コロナ禍で業績が落ち込んだからといって、個人・企業にかかわらずこのまま朽ちていくわけにもいきません。さまざまなアイデアや工夫で一発逆転、もしくは回復に向けて必死の行動をしているはずです。
そうした中で、ある種の「コンサルタント」など、他者の助言を求める場合もあるでしょう。そして、その人物を救世主と思い、コンサル料を支払うこともあるかもしれません。
しかし、その中には警戒すべき人物、簡単に信頼してはならない人物もいるはずです。そういった人の種類は多種多様ですが、今回は一つの「例」をご紹介させていただきます。
スイスの著名な作家・ロルフ・ドベリ氏の著作『Think right』(サンマーク出版)では、助けを求めたい時に頼った人物が「ある発言」をした際、注意すべきと警鐘を鳴らしています。
ドベリ氏は自身の経験で、旅行中の急激な腹痛で医者に診てもらった際の出来事を綴っています。その医者は薬を渡して「いったん症状は悪くなるが、その後はよくなる」と語ったようです。言われた通り薬を飲んだドベリ氏の体調は悪化、ここまでは医者の言う通りでした。しかし、その後もさらに悪化。別の医者に診てもらったところ、盲腸炎の診断を受けてすぐに手術したそうです。
ドベリ氏は“ヤブ医者”の語ったことを信じ、身体が一時危険にさらされました。そうなった原因は「いったん症状は悪くなる」という医者の“予言”が的中したからでしょう。ドベリ氏は自身の体験から「いったん悪化してからよくなる」と発言する人には警戒すべき、としています。
これは病気だけでは決してなく、ビジネスなどでも同じでしょう。(自称)コンサルタントが「あなたの店の売上は厳しいですね。でも私がいれば大丈夫。複雑な状況なので最初は売上は減少しますが、その後回復するでしょう」といえば、前述の医者と状況は酷似しているはずです。
「二面性」のある人物
このやり方のタチの悪いところは「一時的に状況が悪化する」という点は簡単に当たり、相手を信じ込ませられること、仮に予想に反し最初から悪化せず状況が好転すればそれはそれでOKで、信頼を得る……つまり、話を持ち掛ける側のリスクがほとんどないことです。
一時的に悪化している際にもコンサルタント料などは支払われますし、コンサルを受けた側が「この人物はダメだな」と契約を解除しても、それまでにある程度の利益は確保できてしまいます。「いったん悪化してからよくなる」は、単純な時間稼ぎには最適なのです。
こうした人物をどう見分ければいいのか……いきなり初対面ではなかなか見わけがつかないでしょう。そうした人物は化けの皮を被っている場合がほとんどです。ただ、ある程度の知人であれば方法はあります。
米ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラント氏の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)では、奪う人(テイカー)の見分け方として「部下などには横柄で、上司や上の立場にはこびへつらう」傾向のある人としています。そうした「二面性」のある人物は警戒すべきであるということです。
同著では「自分に利益にならない人をどう扱うかで、その人がどんな人間かわかる」とも記しています。
こうしたテイカーや「いったん悪化してからよくなる」という手法を使う人は、一見人当たりがよくうやうやしい態度をとります。ファーストコンタクトがよければよいほど、警戒すべきということかもしれません。
コロナ禍によって事業や仕事の復活を願う人が多数いる一方で、そうした揺れる心の隙間に取り入る人も増えてくるのが世の常。平時よりも警戒心を強めることは悪いことではないでしょう。
(文/中内田信介)