生活

あなたの「理想の移住先」を考える。元マイクロソフト成毛眞氏が考える移住の「人的条件」と「環境条件」

発行責任者 (K.ono)

 ここ2年ほど新型コロナウィルスの蔓延により、首都東京でも大きな変化が巻き起こっています。

「地方移住に積極的な人物の条件」と「地方の特色」

 2020年に1997年以来「転出」が上回った東京。コロナ禍によるリモートワークを中心とした働き方の変化、ライフスタイルの転換などが一気に進行しました。地方創生などが叫ばれても20年以上東京の転入超過に変化はありませんでしたが、コロナという世界を覆った衝撃が簡単にその風向きを変えた形です。

 もともと東京の一極集中は長らく問題視されていたことで、この変化はコロナ禍とはいえ決して悪いことではないでしょう。ITが発達した現代、同じオフィスにいなくとも会議や仕事の連携、スケジュールやタスク管理も容易になりました。わざわざ生活コストが高い東京に縛られる必要もない、と考える人が増えるのも自然です。

 それぞれが住みたい街に住み、場所に縛られず生活する――この響きはなかなかに魅力的で、家庭の事情で田舎の実家から離れられない人も大都市圏基準の給与を稼ぐ可能性も十分に出てきます。そういう生活は過去にはブロガーやYouTuber、優秀なエンジニアや一部の経営者・有名人に限られていましたが、そうした垣根も薄まってくるはずです。

 そんな中、今後「住む場所」としてどういった選択肢があるのかも注目されます。日本は狭い島国ですが、気候や環境は東西南北で大きく異なります。選択の基準は無限にあるはずです。

 元マイクロソフト日本法人の社長である成毛眞氏も著書『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)で、国内移住について考察しています。成毛氏の語った「地方移住に積極的な人物の条件」は以下になります。

  1. 30代前後(20代ではスキル不足で都市圏から離れるほどの力がない)
  2. 未婚・子なし(子どもの生活や教育の変化を気にして動こうと思わない)

 これだけでもそれなりに対象は制限されます。そして成毛氏は、注目する地方をいくつか特色付きであげています。

  1. 【福井県】優秀な人材を150年にわたり輩出し続け、教育面で充実。
  2. 【福岡市・札幌市】誰でも住みやすく、排他的な土地柄ではない。北海道はそもそも人付き合いが薄い。
  3. 【岩手県沿岸・宮城県沿岸】世界中から船団が来て、日本では一線を画した文化を形成。バイリンガルの漁師も珍しくない。

 いずれもそれぞれに魅力があります。成毛氏の紹介以外でも、それぞれの人に合った魅力的な街は多数あるでしょう。

「排他」という問題点

 ただ【福岡市・札幌市】にある「排他的な土地柄か否か」は重要かもしれません。成毛氏は親戚や馴染みの店も多い京都への移住にも興味があるようですが、京都は住む場所によって古くからの独自ルールが根強くあり、外から来た人は気疲れすることも多いようです。

 こうした「排他」というのは、伝統ある土地に多い印象です。金沢や函館などでも似たような話を耳にしたことがあります。住む場所は生活環境の特徴だけでなく、伝統や人々の気質にまで気を配るべきでしょう。

 ちなみに筆者の住む札幌ですが、成毛氏の言う通り住民とのかかわりは濃くはない印象で、移住者には気楽かもしれません。十分に都会で繁華街もありますし、車で30分も走れば山も海も川も近いと、レジャーにも困りません。仕事の幅という面では他の大都市と比べると弱い印象ですが、前述のリモート生活を実現できるのであれば、最高の土地の一つと言えるのではないでしょうか。

 また、昨今の日本の状況を考えると、北海道の利点は他にもあります。今日本で大きなリスクといえる「首都直下地震」や「南海トラフ地震」「富士山の噴火」の圏外にある点はもちろんですが、ここ数年の夏は、九州から関西にかけてかつてない豪雨に襲われることが多くなっています。北海道は雪深さはありますが、ひとまずこうした危機は回避できる位置にはいます(経済的な面では、首都機能が地震などで麻痺すればどこにいようと一緒ですが)。

 ただ一方、大都市圏のトレンドというのも健在で、さまざまな人に出会う機会やチャンスは変わらず東京大阪等が多いのも事実でしょう。今のところ都市部にこだわらないという生き方はマイノリティのままです。今後変わっていく可能性はありますし、潜在的に地方移住に憧れを抱く層も多いはずです。

 また、日本企業の多くがリモートに移行したのは「コロナ禍により仕方なく」という部分も大きいです。決してポジティブにDX(デジタルトランスフォーメーション)に向かったわけではない……ネガティブなDXは、仮にコロナ禍が終わればすぐ元に戻ってしまう懸念もあります。

 地方移住が本当のトレンドになるには、日本企業の多くがコロナ禍の後もDXやリモートを継続したり、会社に集まる必要がないというムードを作る必要があります。都市型と移住、どちらが正しいというわけではありませんが、自由に選べる生き方ができるようになることは、多くの社会課題にとってメリットも多いはず。期待したいところです。
(文/編集部)