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ひろゆき氏も絶賛『コンテナ物語』に学ぶ“ブラックスワン”本音レビュー 

発行責任者 (K.ono)

 変化のスピードが速すぎるとも言われる現代社会。それについていくことが多くの人にとって成功の条件とも言われています。

「液状化(=リキッド)した社会」

 しかし、ITやグローバリゼーションが牽引する世の中の進化はそう簡単に順応できるものではありません。そんな中では凝り固まったアイデンティティはすぐに時代遅れとなり、常に個人はアイデンティティの変革を求められます。一貫したアイデンティティを保つのが“マイナス”となる時代を、イギリスの学者ジグムント・バウマンは「液状化(=リキッド)した社会」と語りました。現代ほどこの言葉が似合う時代はないでしょう。

 今や劇的な変化は10年どころか1~2年、場合によっては半年周期で訪れ、そのたびに一定の人々は仕事を奪われ、一部の人々はその恩恵を享受することになります。

 1950年代、米国の起業家マルコム・マクリーンが海運輸送において「コンテナ」を用い、その後輸送コストが激減したことで業界全体が大きく変革する「コンテナリーゼーション」の様を描いた『コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった』(日経BP)が一時話題になりました。世界の輸出入やトヨタによって世界に波及した「ジャストインタイム方式(部品などの受注生産により適正量を生産し在庫を減らす効率的な方式)」も、部品や製品を安価かつスピーディに国外から取り寄せたり渡すことができるからこそ成り立つものですが、それもまたコンテナ輸送の隆盛によってもたらされています。今テレビ等で人気の西村博之(ひろゆき)氏も推薦している書籍です。

破壊的イノベーションを想像できず

 一方で、コンテナとクレーンの台頭によって世界中の海運労働者の仕事の多くは消滅し、一部の高い技術を持つ人の仕事に変貌しました。そして今やAIの登場でその技術者すらも必要なくなる時代すらも想定されると言います。

 この『コンテナ物語』からわかるのは、現在のコンテナの基礎を開発し広めた功労者であるマクリーンですら、コンテナがここまで破壊的なイノベーションをもたらすことを想像できず、時代の流れによって革命が生まれてしまった点です。実際にマクリーンはコンテナリーゼーションが世界に広がる過程で巨額投資を回収できず、自身の会社を潰してしまいました。

 例えばiPhoneのように、スティーブ・ジョブズの意志と美学によって世界を席巻した“おとぎ話”と真逆の、どうしようもない大きな波が生まれ、巻き込まれるというのが現実のパターンとしては多いのかもしれません。

 コンテナリーゼーションの先駆者であるマクリーンですら変化を読み切ることができず揺さぶられるわけですから、世間の大半がそうした変化に簡単に順応するのはやはり難しいということです。

 IT技術の発展はもちろん、リーマンショック、地球温暖化による思わぬ土地での気候変動や災害、さらには2020年から続く新型コロナウィルスの未曾有のパニックと、想像もしていなかったような「あり得ないと思っていたこと」が立て続けに起きています。

 この知らない、考えたこともないあり得ない(と思っていた)出来事を「白鳥は全部白いもの」と信じていた人が黒い白鳥の存在になぞらえて「ブラック・スワン」と言います。現代はこのブラック・スワンが頻繁に起こり、人生や心を揺さぶるのです。

ブラック・スワンの恩恵を得る人は少ない

 ただ、ブラックスワンは悪いことだけでなく、とてつもない幸福をもたらす意味でも使われます。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOを筆頭に、20代にして短期間でビリオネアになるなど、過去にはない飛躍も現代だからこそ成し得たことです。

 当然ながら良いブラック・スワンの恩恵を得る人は(実感としては)多くありません。『コンテナ物語』では物流コスト減少により多方面に好影響がありましたが、注目されているのは海運労働者の解雇や失職であり、その悲劇にこそ人は目を向けます。得たものよりも失うものをこそ重く受け止める人間の特性(損失回避性)も影響します。

 良いブラック・スワンを得られればそれは最高ですが、なかなか流れを読むことは難しいものです。せめて悪いブラック・スワンを避けるため、慎重さや保守的な思考がある程度は必要と言えるでしょう。
(文・山岸純一郎)