一昨年から新型コロナウィルスが蔓延したことにより、住宅など不動産への関心が高まっています。
一般層はもちろん個人投資家や外資系ファンドなども日本の不動産に注目しており、都内のマンション価格は高騰を続けています。
「一生に一度の買い物」
投資筋はともかく、一般人にとっては「一生に一度の買い物」と表現して差し支えなく、長期ローンを組んで自分の思い描く理想の家を得る決断をした人も多くいるでしょう。
人生を左右する決断だけに下調べも入念に行うことでしょう。できる限り後悔しない選択をするため、ローンの組み方や周辺環境、設備など綿密に調査するに違いありません。
とはいえ、家を買う多くの人は不動産の素人です。自分で調べるには限界があります。専門家でもない人の意見に右往左往することの無意味さは新型コロナにおける一連のインフォデミックで証明されていますが、やはり素人では限界があるのです。
となると、やはり不動産デベロッパーや仲介業者等の意見に頼る部分は大きいでしょう。とはいえ彼らも商売。あの手この手で「購入者が買いたい物件」ではなく「業者が買わせたい物件」を売ろうとするもの。この2つのギャップが大きいと思わぬ購入失敗にもつながりかねません。
「おとり効果」
不動産業者が良く使う手法が「おとり効果」というものです。
おとり効果のわかりやすい例として「うな重」があります。うな重はよく「松・竹・梅」というのがありますが、例えば「松5000円、竹3500円、梅2000円」だとしましょう。
この場合、多くの人は「竹」を選択するのではないでしょうか。松は極端に高く、梅は松の半分以下ですので極端に安く見えてしまうからです。もっとも後悔しない無難な選択は竹、という結論に至る場合が多いと思われます。
これは人間の「極端の回避効果」が働くからです。これは直感の類である「固着性ヒューリスティック」によるもので、売る側としては安い梅よりも高い竹の注文を増やすことができます。
このおとり効果は外食であれば特に問題はないですが、不動産など大きな買い物になると、甘く見てはいけません。
米国の著書『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(誠信書房)でもこの点について語られています。
営業手法としてはポピュラー
家の内見の際、業者が最初にオススメした物件は外観も内観もくたびれて狭く、とても良い印象を抱くことができないものだったとしましょう。さらに金額が思った以上に高額だったら「こんなの買うわけがない」と呆れるはずです。この業者大丈夫か?となるに違いありません。
しかし、最初にこの「おとり」を見せられた後では、他のどの物件を見てもある程度許せるようになっているでしょう。その感情は最初に思い描いた理想とは大きく異なっているかもしれません。結局購入した物件は「理想とは少し違う、本来より高い金額の家」になる可能性が出てきます。
業者の営業や宣伝は実に巧みです。おとりという「対比効果」は営業手法としてはポピュラーでやりやすいですが、その効果を甘く見てはいけないということです。
人の気持ちや選択は絶対的なものでなく、相対的なものである――大きな買い物の際は、周辺情報に気を配って自分の理想を見失う必要があると言えるでしょう。
(文/藤本健吾)