「わかりやすい人」この言葉からどのようなイメージを抱くだろうか。喜怒哀楽をはっきりと表現する感情表現が豊かな人を思い浮かべた人も少なくないはずだ。
「わかりやすい」と感じる上司はどのような人?
2021年に行われた東京オリンピックにおいても、勝敗によって喜びを派手に表現したり、感極まって涙を流したりと「わかりやすい」選手が多く見られた。同時にクールに競技を進めていた選手が重圧から解き放たれたかのように、感情をあらわにする姿に驚いた人もいるだろう。表情や感情を表に出さない人を「わかりにくい人」と感じてしまいがちだが、じつは内側の「わかりやすさ」を隠して勝敗のために自分を演出していたのかもしれない。
スポーツ選手が勝敗のために、自分の見え方を演出しているとしたら、私たち一般社会ではどうだろうか。身近な会社などにおいても「わかりやすい人」と「わかりにくい人」と感じる人がいるのかもしれない。
例えば「わかりやすい」と感じる上司はどのような人だろうか。「機嫌がよさそうだから今のうちに質問しよう」、「いまは話かけない方がいいだろう」そんな判断がしやすい人を思い浮かべるのではないだろうか。対照的に「わかりにくい人」と感じる上司は「なにを考えているか読めない」、「機嫌が読めないから、質問しにくい……」そんな人だろう。どちらが人望を集めるかは一目瞭然。可能ならば周囲からは「わかりやすい人」だと思われておいた方が得ではないだろうか。
では、「わかりやすい人」になるにはどうすればいいのだろう。
「グッド・ターゲット」
人の考えていることなど、当人以外には分かりようがない。にもかかわらず感情が伝わってくるいわゆる「わかりやすい人」は、実は自分が“そう見えるようにうまく周りに感じさせる“ことがうまい人なのである。
つまり当人の持っている性格や、人間性といった潜在的な要素以上に、それをどう周りに感じ取ってもらうか、いわゆるセルフプロモーション力がなにより重要なのである。
心理学的にも、そのように周りに自分という存在を表現することを「judgeable(判断可能)」と呼び、パーソナリティの専門家であるデイヴィッド・ファンダーはわかりやすい人を「グッド・ターゲット」と称し、目指すべき人物だと高く評価している。
一方で「わかりにくい人」というレッテルが張られがちな人は、自分の気持ちをうまく周りに表現することができていないということになる。「分かりにくい=本当の自分が理解されていない状態」だともいえる。
このような周りの認識と当人の気持ちがズレている状態は、度々大きな誤解につながってしまうだろう。「自己表現」というたった一つの要素によって、人はとても“生きにくい状態”を自ら引き起こしてしまうことがあるのだ。
“生きやすい人生”を目指して
逆に言えば、周りからのイメージさえうまくコントロールすることができれば、実は人生は一気に生きやすくなるかもしれない。実際に、「わかりやすい人」は心理的適応能力が高いことが判明している。人生にも仕事にも満足しており、人間関係が良好であり、目的意識をしっかりと持って幸福を感じて生きている人が多いという研究結果もある。
「誰からも理解されない…」。と感じがちな方は、自分の内面を磨くことも大切だが、まずは一旦「周りからの見え方」を意識してみるのも有効かもしれない。自分の性格や能力を急に変えることは難しいが、周りからの見え方であれば案外心掛け一つで変えることができるような気はしないだろうか。
自分をうまく表現することで、心理学的に“わかりやすい人”そして“生きやすい人生”を目指してみてはいかがだろうか。
(文/名古屋健)