思考

映画で「真逆のリアクション」記憶の違いと呼び起こされる感情の差異

発行責任者 (K.ono)

 同じ物事を見たり聞いたりしても、自分と他人では受け止め方やリアクションに差があると感じたことはないだろうか。

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い「おうち時間」が増加した近年、サブスク型の動画配信サービスを利用することも多くなってきている。

自分とは異なるリアクション

 株式会社スパコロの調べによると、現在日本で利用されている動画配信サービスの利用率は、Netflixで9.1%、TVerで16.0%、Amazonプライムビデオで23.3%(※)。最も利用者の多いAmazonプライムビデオは、約5人に1人が利用しているということが分かっている。利用者層も若者から年配の人まで幅広く、実に多くの人々が日常的に動画配信サービスを利用しているのだ。

 これらのサービスを利用すると、映画館などで映画を観る時とは異なることも多い。

 例えば、自宅で映画を観る時は、他人を気遣う必要がないので笑えるシーンでは声を出して笑い、泣けるシーンには涙を流して泣くことができる。また、一緒に視聴した家族や友人、恋人のリアクションも観察することができる。そんな時、自分と同じ映画を観ているはずが、自分とは異なるリアクションや感情表現をしているのを見て、少し驚くことがあるかもしれない。

 身近な人との間でも、何故このような差が生まれるのだろうか?

 応用神経科学者である青砥瑞人氏は、著書『HAPPY STRESS (ハッピーストレス) ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)のなかで、「わたしたちの脳はあった出来事だけではなく、その時どう感じたか、という情報も一緒に記憶化していく」と語っている。

 どういうことかというと、人間の記憶というものは、科学的には脳の神経細胞に“記憶痕跡”という形で残っていく。しかし、記憶は海馬という部位に保存される出来事そのものの情報だけでなく、その際に「どう感じたか」という感情的な情報も、扁桃体という脳の部位に一緒に保存していくのだという。逆に言えば、ある記憶を思い出す時、出来事と感情が同時にアウトプットされるのである。

「すっきりする」と思うか「暑くてイライラする」と思うか

 例えば観ている映画の物語が、どこか自分の経験と重なる部分があるとしよう。「あ、こんなこと私にもあったな」と過去の出来事を思い出した時、同時にその時の感情も記憶としてよみがえってくる。それが涙に変わったり、怒りを覚えたり、ふふっと笑ったりといったリアクションとして表れるのだろう。

 これは映画や動画鑑賞に限ったことではなく、何気ない日常の中でも起こる。同じ場面に遭遇しても何も感じない人と喜びを感じる人、あるいはマイナス感情を抱く人がいるが、果たしてどのタイプの人が人生で最も多く幸せを感じることができるだろうか。ふと夏の晴れた空を見上げて「気持ちがいい」「すっきりする」と思うか「暑くてイライラする」と思うかで、大げさかもしれないが、その後の人生は大きく変わってくるかもしれない。

 夏のきれいな空を見上げる、近所の景色を見るといった、記憶を思い出す場面に出会う数が多ければ多いほど、意識的にポジティブな思いを付随させて記憶したほうが、後になって、人より幸せを感じやすくなるのではないだろうか。

 人生において起こるすべての出来事について、ポジティブな思いを持つのは難しいかもしれない。しかし、どんな些細なことでもいいので、なるべく多くの物事に対してハッピーと感じてポジティブな思考を上手くつくっていこう
(文/名古屋健)