日本でも格差拡大が叫ばれる機会が増え、政府の給付金の形に賛否も巻き起こるなど多くの議論が巻き起こっています。
格差と薬物、アルコールの関係
米国や英国と比較すれば、日本の所得格差(とそれに伴う階層格差)はまだ深刻ではないという意見もありますが、相対的貧困(等価可処分所得が約127万円以下)が増加し2016年の調査では16%以上。G7の中でも米国に次いで2番目の高さとなっています(OECD 経済審査報告書2017年|OECD https://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-2017-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf)。
また、金銭的な貧しさだけが貧困ではないという意見もあります。作家の橘玲氏は著書『幸福の「資本」論――あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社)では、幸福は「人的資本(稼ぐ力、収入)」「社会資本(家族や人間関係)」「金融資産」の3つによって成り立ち、この3つすべてがないことを“貧困”としています。十分な貯金も収入もなく、友人など人間関係も希薄な人は決して少なくありません。都市部は人間関係が自然と薄く、さらに家賃や物価も高いため、橘氏が語るところの貧困に陥る人が多くなりがちかもしれません。
上記から、人間の幸福が金銭だけで成り立つものでないことは理解できます。さらに、安定した収入と一定の資産を持ち、ある程度友人がいたとしても、先進国はなかなか幸福を感じられない実情があります。
英国の経済学者リチャード・ウィルキンソンらの『格差は心を壊す 比較という呪縛』(東洋経済新報社)では、資本主義による行き過ぎた格差や不平等が蔓延した社会においては、人々は社会的地位への不安や意識が強くなり、地位が高ければ低い人を蔑み、低い人は高い人に嫉妬と屈辱を覚えるようになるとしています。
不平等な社会では精神的なダメージが「地位の高低に限らず」大きくなり、特に下層での不安は薬物使用やアルコール依存などの中毒を誘発します。実際に米国では白人の労働者階級の人々の寿命が下がっており、その原因がアルコールや薬物、自殺による「絶望死」の影響が大きいと各方面で指摘されています。
若者が「クラブに行く前に酒を飲む」ワケ
また、欧米では若者の間でもこうした社会地位への不安、言い換えれば「人によく見せること」への不安が大きくなっています。SNSの隆盛によって自分をよく見せようとする欲求が強まっているのは多くの人が納得できるところですし、その中心には若者がいるのは語るまでもないことです。
その顕著な例が「プリドリンキング」と呼ばれるもので『格差は心を壊す』で紹介されています。現在、多くの若者がクラブに遊びに行く際、その前に「自宅でアルコールをある程度接種してから出かける」というものです。これによってクラブに行く前から少し酔った状態になり、店で飲むより安上がりというのが“表向きの”理由です。
しかし、実際にそうしたプリドリンキングを行うのは「少し引っかければ出かける勇気がわく」「酔っぱらってからなら出かけやすい」という理由が大きいとのことです。つまり、酔った状態であれば、自分が「他人の目」や「対外的な評価」を気にしなくて済むのです。
現在の若者は社会的な評価を常に気にしている状態であり、それは外に遊びに出かける場合でも同じということです。彼らは必ずしもアルコール依存というわけではありませんが、現実や対外的な関わりからの“逃避”という意味では。深刻な中毒に至るメカニズムと近い行動をしているのです。これは日本人でも当てはまる人は多いのではないでしょうか。
格差や不平等が社会的な評価や階層への不安を増大させているのは間違いないでしょう。日本もこれ以上格差が拡がらないよう対策をする重要度はやはり高いと言えます。
(文/谷口譲二)