社会

YouTuber「高級ブランド自慢」が不健康な理由…格差をくすぐる“地位”のメカニズム

発行責任者 (K.ono)

 近年、YouTuberやインフルエンサーといった、主にSNSや動画配信を駆使して影響力を有する人が一気に増加しました。

 こうした人々は何も芸能人を含めた著名人に限定されるものではなく、まったくの素人が自己発信によってファンを獲得し、影響力を持つという例も決して少なくはありません。ある意味誰にでも有名になったり大金を稼ぐチャンスがある状況とも言えるのです。

「自慢」のマーケティング

 そんなインフルエンサー、YouTuberが注目を浴びる演出で多いのが「高級ブランド自慢」です。ルイヴィトンやエルメスなど誰もが知る高額ブランド、高級ワインや時計を購入したり身につけ紹介することで、ファンや視聴者に“憧れ”を持たせ、求心力をさらに高めるというわけです。

 こういった「自慢」のマーケティングというのは思いの外効力を発揮し、多くの大物インフルエンサーが実践し結果を残しています。もちろん話術やアイデアなど他の人気要因もありますし、いわゆる「企業案件」で紹介している場合もあるでしょうが……。

 なぜこれほどまでに高級自慢が効力を発揮するのでしょうか。そこには19世紀の終わりに提唱された「顕示的消費」という概念が少なからず絡んでいます。

 この考えを示したのは、米国の経済・社会学者ソースティン・ヴェブレンです。顕示的消費とは、人々は金持ちになると、その“地位”に見合った、そして「他人の目に触れる財やサービス」への支出を増加させる傾向のことを言います。

 お金持ちになった人は、例えば外に見せることのない家具よりも、車やバッグ、腕時計に指輪といった、人目につきやすいものを優先して購入する傾向があるとヴェブレンは指摘しています。ヴェブレンが生きた時代は貧富の差が大きなものとなった時代であり、それに警鐘を鳴らしたということです。

 現代社会は20世紀初頭と同等かそれ以上の格差社会と言われており、ヴェブレンの言葉はそのまま当てはまるのではないでしょうか。そしてこの傾向は、不平等な社会と格差増大による「社会的地位への意識」によるものと指摘されます。

「私もこうなりたい」という一見ポジティブな感情

 2020年、経済学者リチャード・ウィルキンソンらの著書『格差は心を壊す 比較という呪縛』(東洋経済新報社)によれば、貧富の格差や高級ブランドが、人々に所得格差や地位格差の現実を突きつけるとしています。

 社会の階層ラインが色濃くなっている現代で、人は格差の意識や他人との比較から逃れることができません。高級ブランドというのは非常にわかりやすい比較です。

 例えば、近しい人や友人が高級ブランドをこれ見よがしに身に着けていた場合、それはわかりやすい嫉妬や“マウンティング”のように感じられ、いい思いをしない人も多いはずです。一方、YouTuberやインフルエンサーなど「社会的地位が高そうな遠い他人」が同じように高級ブランドを身に着けているとどうでしょうか。その人達に対し憧れや「私もこうなりたい」という一見ポジティブな感情に切り替わるパターンも少なくないはずです。

 しかし、実際のところこうした人の傾向は「自尊心や自信の喪失、社会的地位への不安」によるものと同著では記されています。逆にインフルエンサーをことさらに否定しようとする人も、自身の社会的地位の低さへの拒否反応を感じさせます。

 インフルエンサーの「自慢」は、想像以上に一般人の心を刺激し、社会的地位や格差を意識させるものです。決して健康的な動向とは言えないかもしれません。
(文/田中陽太郎)