思考

CM・広告効果を絶大にする「単純接触効果」洗剤選びからナチスまで?

発行責任者 (K.ono)

 日本に限らず、人は日常でさまざまなプロモーションを目にしています。

 以前ほどの力はなくなったとはいえ、日本におけるプロモーションでもっともポピュラーなのがテレビCMでしょう。有名な女優スポーツ選手、もしくはアニメーションを使ったものや商品そのものの宣伝など、バリエーションは多種多彩です。

繰り返し目にしたり触れることで…

 広告主は代理店等を通じてテレビ局が持つ各番組のCM枠を購入し、映像を制作して流します。放送する時間帯や期間によっても費用は変わり、常に大きな金額が動きます。とりわけ日本では地上波民放のCMの影響力は強く、いまだトレンドを生み出すトリガーの一つとして機能しているとは言えるでしょう。先の東京五輪でも多くのスポンサー企業が競技の合間にCMを流していました。その効果はやはり大きいと見るべきではないでしょうか。

 もちろんCMの内容やそのクオリティ、届けたいメッセージが視聴者層に刺さるかなど多くの要因がありますが、広告効果はそう単純に決まるものではありません。

 広告手法としてよく使われるのが「単純接触効果」というものです。

 この「単純接触効果」とは、最初は好きでも嫌いでもなかったものが、何度も繰り返し目にしたり触れることで好意が増す現象のことをいいます。

 この現象は、繰り返し触れることでその対象を知覚しやすくなり、「知覚しやすさを好意と勘違いしてしまう」という仕組みです。人の頭の中でこうした“誤った帰属”が起きる傾向があるのです。

 これは人との関係もそうで、例えば男性は、魅力が同じくらいの女性ならば会った回数が多ければ多いほどより好意を抱くようになるとのこと。セールスにおいても、特に悪印象がないならば、何度も足を運ぶことで見込み客の態度が変化することも往々にしてあります。

「何となくの信頼感」で購入するパターン

 日常にも溢れている「単純接触効果」ですが、この効果を巧みに活用しているのがテレビCMです。広告の「反復表示」の強力な力を、1998年に日本で発売された『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(誠信書房)では細かく記しています。

 同書では「慣れ親しむと、魅力と好意を生じせしめる」とし、固有名詞こそないものの「単純接触効果」について語っています。

 例えばスーパーマーケットに行って洗剤を買おうとした時、棚に並ぶ商品の中でどの洗剤を手に取るか。多くの人は「よく名前や商品のパッケージ」を手に取るでしょう。その後価格などの検討もするはずですが「何となくの信頼感」で購入するパターンは少なくないはずです。

 そして、そうした信頼は「テレビCMでよくやっているから」というところから来ていないでしょうか。

 知らず知らずのうちに人は、何度も見聞きしたものに好意を持ち、信頼を覚えてしまうということです。ネット広告なども同じではありますが、特に日本においてはテレビの公的な信用度がより高いため「テレビCMでやっているから安心」という付随的な効果も大きく作用します。

「大衆は、最も慣れ親しんだ情報を真実と呼ぶ」

 1990年代の米国で、ノースウェスト相互生命保険会社が認知度を上昇させるために約110億円もの費用を使って2週間広告を打ちまくった結果、それまでの保険会社認知度34位から瞬く間に3位へジャンプアップしたという事例もあります。このジャンプアップが知名度だけでなく売上にも大きなインパクトをもたらしたことは想像に難くないでしょう。

『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』では、ナチスドイツの宣伝相ゲッベルスの言葉「大衆は、最も慣れ親しんだ情報を真実と呼ぶ」という言葉を紹介しています。

 経済効果的には大したことがなくとも、テレビ各局がCMを打ったりネットに情報を拡散することで「この人、商品は流行っている」「この主張は正しいものだ」と認識してしまう……ある意味では、人の思考を奪うという力を「単純接触効果」は持っています。

 最後は少々怖い話になりましたが、その流行がどこから来ているのか、具体的な事実よりも宣伝が作り出すムーブメント、いわば「全体の雰囲気」に自分の思考が引っ張られていないかを時折考えるのは、思考力を失わないためには必要といえるかもしれません。
(文/谷口譲二)