社会

貧乏は「遺伝」するのか。親から子へ「労働者1.0」マインドが受け継がれる問題

発行責任者 (K.ono)

 2020年から続く新型コロナウィルスの蔓延、最近の世界同時株安や円安が、世界中の経済に打撃を与えている。

 日本においては、いわゆる「1億総中流」といわれる中流層が下流に落ちるリスクがこれまで以上に上昇している。コロナの影響がすべての人に平等に降りかかったことで「総中流」という幻想が崩れ、格差社会がより浮彫りになってしまった。

まだ日本には「希望がある」

 今後の日本が格差増大に向かっていく中で、相対的に貧困層というのも増加するに違いない。厚生労働省によれば、122万円未満の可処分所得(収入などから税金や社会保障費などを引いた金額)の相対的貧困層世帯が、2019年時点では15%程度で見られたようだが、この層でなくとも所得で厳しい世帯は増えていくに違いない。むしろ今の段階でそうした家庭が多数派と見るべきかもしれない。

 コロナ禍での対応から政府への不信感も増大しているが、まだ日本には「希望がある」との意見もある。『ビジネスエリートになるための教養としての投資』(ダイヤモンド社)で、著書の奥野一成氏は欧米との比較からそれを考察している。

 同著では「貧困は遺伝する」と強い言葉が綴られている。階級社会がはっきりしている欧米では年収150万円以下の世帯の子が成り上がれる可能性が極めて低いことから、この発言をしているようだ。

 欧米の有名大学、優秀な大学はほとんどが「私立」であり、その学費は米国の超有名大学であれば4年間で2400万円ほどで、米国民はおろか日本の感覚でも大多数は支払えないレベルだ。階級差がある欧米で入学させるのが至難、というのは理解しやすい話である。

「本人次第」が実現しやすい環境

 一方、日本は公的教育インフラが整っている点を指摘。私立中高への進学はそれなりに多いものの、公立高校でも本人次第で十分に有名大学に入れる可能性があり、学費の高くない国公立大学の存在感も強い。センター試験(2020年度から「共通テスト」に名称変更)が万人に平等という点からも、少なくとも欧米のようなあからさまな教育格差はないということがいえる。

 その意味では、日本の子どもたちには現状を打破するチャンスがあり、人生を懸けて富裕層と立場を逆転するのも非現実的ではない、ということだ。「本人次第」が実現しやすい環境なのである。

 ただ、奥野氏は本当の問題点は別にあるとも指摘している。それが、いわば貧困層の親には、同著では指示待ちタイプで“人に使われ続ける”労働者「労働者1.0」と表現しているが、そうした人が多いという点である。

「労働者2.0」のマインド

「労働者1.0」の親が、自らの勉強、行動力と意志で仕事をポジティブに行う「労働者2.0」のマインドを子どもに教えるかといえば、やはりその割合は極めて低いと奥野氏は語る。「労働者1.0」の親が「労働者1.0」の子どもを生み出すからこそ、「貧困は遺伝する」と強い表現をしたというわけだ。

 だからこそ、「労働者1.0」の親には子どもに「自分のようになるな」と教える勇気が必要なのだという。そして「労働者2.0」のマインドを子ども持たせるようにしなくてはならないということだ。

 もちろん「学校でお金の仕組みなどを教育しない」問題点なども指摘されており、「お金の話をするのは醜いことだ」という日本の風潮もある。根本解決に至るのはだいぶ先だろう。

 それでも最低限、親が自分の子どもに「労働者1.0」にならないような道筋を示すことは可能なはずだ。そうすることで、子どもが自ら生きていく上で必要な情報を自然とキャッチするようになるのではないだろうか。

 仕事を自分事として捉えたり、投資や起業などハードルの高い動きをするのは、その考えが醸成された後の話と言えそうだ。
(文/玉川豊)