思考

人間の「欲」が暗いニュースを生む…承認欲求の奴隷にならないために

発行責任者 (K.ono)

 大手ポータルサイトのニュース一覧などを見ると、多くの事件や出来事を目にすることになります。

暗いニュースは「欲」から生じる

 報道というのは、基本的には「いいニュースはニュースにならない」という原則があるので(ハンス・ロスリング『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)でも言及)、政治せよ経済にせよエンターテインメントにせよ、目立つニュースは暗かったり刺激的なものが多くなります。そうした出来事にこそ多くのコメントが集まり、盛り上がったり炎上したりとなるわけです。

 そして、そうした暗い(腹立たしい、不快など)ニュースには、共通点があります。それは多くが人の「」によって引き起こされているという点です。会社の不正会計も殺人などの暴力もテレビ出演者の問題発言も政治家の横暴も、それぞれの立場で「欲」が暴走したり不満が爆発したりするパターンが数多くあります。

 一口に「欲」と言ってもその種類もさまざまです。人間がどういった欲を有しているのか、それを言語化することで自分の欲を少しでもコントロールできるかもしれません。

 20世紀の偉大な心理学者アブラハム・マズローは、人間にとってもっとも高次の欲求を「自己実現」としています。この自己実現は、下から順に「1・根源的・生理的欲求(衣食住)」「2・安全な暮らし」「3・家族や周囲から受け入れられる欲求」「4・他人からの承認欲求」が満たされた際に生まれる欲求で、これを「欲求の五段階説」と言います。

 この自己実現を、作家の橘玲氏は著書『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社)で「かけがえのない自分」と言い換えて論じています。

「他人からの承認欲求」

「欲求の五段階説」を見ると、1~3まではすべて「生まれた国と家庭環境」が非常に大きな部分を占めるのがわかります。日本国憲法でいうところの「健康で文化的な最低限度の生活」と「家族を中心とした周囲の愛情」に恵まれている点が、自己実現の基本条件ではあるようです。

 その上にあるのが「他人からの承認欲求」ですが、日本人はこの承認欲求がよく注目されます。

 日本には責任感のない親ももちろんたくさんいますが、治安もよく、基本的にはつつましい国民性で、先進国の中でも最低限度の生活を送りやすい国です。前述の1~3は比較的満たされやすいのです。

 世界的に見れば恵まれた環境にある日本ですが、それゆえに「他者からの承認」という点がうまくいかない人が多いです。とはいえほとんどの人がこの点では満たされないのですが……。

 他者からの承認でもっともわかりやすいのが「お金」です。橘氏はお金を単なるデータや紙切れで本質は「幻想」としながらも、多くの人が価値を感じることで共同幻想になり、最終的に「現実」となります。お金は共通認識としての価値が非常に大きいので、大金持ちや成り上がりの人物に注目が集まるのです。

 お金を得られれば「他者からの承認」が得やすくなり自己実現を達成(を自称することも)し、そういった人物への憧れや信仰にもつながることで知名度や権力も生じるでしょう。こうした人々は多くの人にとっては輝いて見えるもので、橘氏のいうところの「かけがえのない自分」を目指したい気持ちが強くなるということです。

欲の仕組みを理解する

 結局のところ、お金や権力、知名度などによって満たされる欲求は「他者があって成り立つ」ことであり、人はどこまでも他人の視線をいい意味で集めたいと思う生き物であります

 現代のSNSなどは承認欲求が増幅しやすい状況にあります。多くの人が自分が幸せであるとアピールし、知らぬ間に「自慢合戦」に巻き込まれることになります。そうした承認欲求は無限に満たされることはなく、最終的に疲弊する人も多くなり、精神的なダメージを受ける人も少なくありません。

 時折悪意ある誹謗中傷などSNSでの過剰な攻撃が事件などにもつながりますが、それもまた欲求が満たされないことによる不満や怒り、楽しそう(に見せている)な人々への嫉妬が充満している部分もあるでしょう。今は多くの人の生活や暮らしぶりが「見え過ぎる」のです。

 日本においては、欲求の五段階説の中で多くの人を苦しめることになる承認欲求。欲の仕組みを理解することで、自分自身がどういった思考や行動をすべきか考える必要もあるでしょう。
(文/喜田孝雄)