思考

懐かしの【セグウェイ】にジョブズもベゾスも騙された!? 『オリジナル』な人が陥るワナとは

発行責任者 (K.ono)

 実業界のスターたる大物経営者、大物投資家というのは、大多数のビジネスマンにとってまさに天上人だ。

 日本なら孫正義や柳井正、若手なら藤田晋や前澤友作がそれにあたる。ビジネスに興味がない人でも知るほどの話題性や先進性、そして衝撃度をまき散らす人物だ。

神話の中の人物

 海外の人物だと、もはや彼らは“伝説”ともいえる。故スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスらは、まるで神話の中の人物のように信じがたいエピソードや独創性極まるアイデア、イチかバチかのチャレンジで世界を変革してきた。その内容たるやまさに「神」といったところだろうか。

 ただ、当たり前だが彼らもまた人間であり、実は一般人とさほど変わらない悩みや失敗を重ねてきている。扱う金額や規模が大きすぎるために見落としがちだが、失敗の仕組みなどは一般人にも落とし込めるものがある。

 前述のジョブズとベゾスは、ある製品に関し完全に「見誤った」経験がある。前者は先日時価総額が初の100兆円を超えたアップルの創業者、後者はアマゾン創業者で、世界一の大富豪だ。

 どちらも積極的に革新的な事業を展開し、新たな可能性にカネを惜しまない投資のプロである。その2人がどちらも心を奪われ、そして予測に失敗した製品とは何か。

 それが「セグウェイ」である。

ベゾス「これは恐ろしく売れる」

 電動立ち乗り自転車として21世紀初頭に大きな話題になった商品だ。この製品にジョブズもベゾスも一発で惚れこんでしまった。ジョブズは多額の投資をしようとして断られたものの、無報酬で「顧問」になると言い出すほどだった。ベゾスも「これは恐ろしく売れる」とその価値に太鼓判を押した。グーグルへの投資などで財を成したジョン・ドーアも、日本円で約80億円をこの会社に投入している。

 しかし「1年で1万点は売れる」という予測はもろくも破れ「6年経っても3万点」しか売れず、 会社はいつまでも黒字に転換せず。いつのころからか「あの頃話題になった製品」という扱いにしかならなかった。

 1点が80万円程度と一般人には高価だったことなど細かな要因はさまざまあるだろうが、ジョブズやベゾスというプロ中のプロが揃って絶賛→失敗という結果になったのには、別の理由がある。

 一つは、2人には当時「移動手段の分野に関し、経験が少なかった」という点だ。

 2人はITやブランド事業に関するプロ中のプロであり、近い分野に関しては独特の“直感”と極めて深い洞察により、時に想像を超えるヒットを生み出すことができる。

 しかし「経験が薄い分野」においては2人の“直感”が決していい経験には働かなかったということである。つまり「直感が有効なのは、経験の十分な分野のみ」ということになる。この点を見誤ったことが、超大物といえる2人がセグウェイの未来を読めなかった理由といえるだろう。

革新性のみに目を奪われて

 長年の知識や豊富な経験があれば、時に直感は分析を凌駕する場合もある。しかしそこで自信過剰になり、大きく異なる分野で直感を働かせることは危険ということだ。その場合は、細かな「分析」が大きな意味を持つ。ジョブズやベゾスは、一般消費向けかどうかなど実用性を仔細に考えず、セグウェイの革新性のみに目を奪われてしまったというわけだ。

 特に現在の世の中は変化のスピードが目まぐるしく、昔と比較してさらに直感の意義が弱まっているともいわれている。より分析することの大切さが増しているのである。

 成功して調子づき、自信過剰の直感で別分野を称賛して失敗する……一般社会でありがちな話ではあるが、世界の革命的起業家ですら同じ状況に陥るという点はやはり注目すべきだろう。

 多くの人が転職をしたり、異業種に挑戦しようと考える際、自分がどのような精神状態か、その分野に対する謙虚で冷静な視点があるかを確認するのは重要だろう。自信満々で飛び込んで思わぬダメージを被るのは、やはりもったいない。チャレンジを後押しするのは直感的な行動だけでなく、慎重さとメンタルコントロールも必要ということだ。
(文/岸仗助)