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市川海老蔵さんのルーツ? 江戸時代の「大衆文化」と「貧しさ」を学ぶ『図解でスッと頭に入る江戸時代』本音レビュー

発行責任者 (K.ono)

 元フリーアナウンサーの小林麻耶さんが、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんに対し、動画やブログで糾弾している騒動が、各メディアで大きく騒がれました。

 海老蔵さんは小林さんにとっては亡くなった妹・麻央さんの夫で義理の弟という立場ですが、麻央さんの闘病中の話や海老蔵さんの素行に関する暴露を行っています。小林さんの話がどこまで本当なのかは調べようがないことですが、得する人がいない騒動なのは間違いないでしょう。

昨今では世間から受け入れられづらい文化

 ただ、海老蔵さんが昔か奔放な性格だったのは一般人レベルでも有名な話であり、そもそも梨園(歌舞伎界)には「遊びも芸の肥やし」という昨今では世間から受け入れられづらい文化も、根強く残っています。

 歌舞伎がはじまったのは1624年(寛永元年)のことであり、江戸時代初期。江戸の日本橋と京橋の間に芝居小屋ができてスタートしました。その後の元禄年間(1688年~1704年)に初代市川團十郎、今の海老蔵さんに続く「成田屋」が創始した荒事が圧倒的な人気を獲得します。「成田屋」の威光は現在でも非常に大きなもので、海老蔵さんが抱える責任は非常に重いとされています。

 一方、そもそも歌舞伎は「大衆芸能」として始まり、江戸時代は武士や町人にかかわらず世間一般が楽しめるものでした。現在のような「伝統芸能」という格式高い印象とは真逆の存在だったことがうかがえます。

『図解でスッと頭に入る江戸時代』

 こうした江戸の文化や暮らしについてわかりやすくまとめた書籍が『図解でスッと頭に入る江戸時代』(昭文社)です。監修の大石学東京学芸大学名誉教授は、『新選組!』『龍馬伝』などのNHK大河ドラマで時代考証を手掛ける第一人者で知られています。

 この本は「高度なシステムを構築し、武家・町民文化が花開いた反映の秘密を解き明かす」というテーマで綴られており、図やカラー写真も充実して非常に読みやすい構成になっています。

 先述の歌舞伎のように、現代でもその名を残す江戸の文化や職業、風習なども紹介されており、現代と共通する社会システムや逆に全く違う価値観を考えたりするのも面白い読み方でしょう。

 同書で、現代において歌舞伎と同じような変遷をたどったのは一部の「外食産業」でしょうか。江戸には全国から多くの武士が集まってきましたが、基本的には「単身赴任」。そもそも江戸全体が男性社会であり、外食産業は「単身の男性」をターゲットにして発展してきた歴史があります。

 その中でも現在は「高級料理」という扱いが強い寿司、天ぷらも、最初は極めて庶民派な外食でした。職人がその場で握って渡すという寿司のスタイルはせっかちな江戸っ子にぴったりですし、天ぷらは串に刺したおやつのような扱いだったそうです。当然ながら価格も誰にでも手が届くものでした。

 現在の歌舞伎、寿司、天ぷらなどは技巧の側面が強く、さらには「日本の伝統」という大看板が乗ったことにより、身近なものから高級なものへと変遷を遂げてきました。歌舞伎界の人々が世間一般からすれば高慢な価値観に見えるのも、高級が故の「選民意識」が人によって強いということかもしれません。

「貧しくても豊かな江戸」現代社会との違い

 また、同書の第4章は「貧しくても心は豊かな庶民の生活」とあります。日本でも昨今「格差」や「貧困」、それに伴う将来不安が叫ばれていますが、江戸時代も「1部屋3畳の長屋に3~4人が暮らす」など、庶民の生活は決して恵まれてはいませんでした。

 しかし、魚や野菜にとどまらず水や酒など様々な商品を天秤棒の両端にぶら下げて売る「棒手振(ぼてふり)」を筆頭に、大工や鍛冶、楊枝屋、畳職人、飛脚などありとあらゆる職業が少ない投資で始めることができたため「失業」や職にあぶれるリスクはほとんどなかったそうです。これは「貧しいけれど追い詰められたり不安になったり、困ったりはしていない」とい意味で貧“困”ではない、と表現することができるのではないでしょうか。

「士農工商」と身分がはっきりしていた時代だけに、いわゆる一発逆転などで出世する可能性は現代と比較して低かったわけですが、逆に他者と自分を比較したりということも少なく、多くの人がある程度“マイペース”で生きていられたということかもしれません。

 江戸時代と比較し、あらゆる面で現代社会は合理的で、衛生的で便利です。その一方、心の豊かさで見ると、江戸時代も決して負けていなかったことがわかります。250年もの間続いた江戸時代から、現代人が学べることは多いと理解できます。
(文/西島義彦)