社会

「弱いつながり」が重要な時代? SNS社会をポジティブに生き抜く作法

発行責任者 (K.ono)

 現代はSNSなどで、過去に類を見ないほど「つながり」に人の注意が向いている時代です。

SNSがなかった時代以上に孤独

 人との関係性やつながりは幸福の源泉です。心を許せる人、深いつながりがあるかないかでその人の幸福度は大きく上下するのは間違いないでしょう。身近な存在は家族ですが、やはり他者からの評価も重要なファクターとなります。

 SNSによってつながりが可視化されることにより、過去になかったトラブルやストレスが生み出されたのも事実です。つながりやすくなった時代にもかかわらず、SNSがなかった時代以上に孤独を感じている人も少なくないでしょう。

 もちろん、深いつながりのある友人がいることは大切でしょう。別にそれは何人も必要ではなく、片手で足りる人数でも十分と言えるはずです。あくまでも個人の私的な幸福という意味では、自分が必要だと思う人間関係に集中することが、つながりや「絆」を得る最善策ではないでしょうか。

 一方、ビジネスなど“公的”な部分では、いわゆる「ゆるいつながりや関係」に価値が出る場合があります。

 米国の行動経済学者・アダム・グラント氏の著書『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)では「ゆるいつながりという人脈づくり」の有用性について語っています。

 同著では米国の実業家アダム・リフキンという人物を紹介しています。彼は2011年、並み居る億万長者を差し置いて、「フォーチュン」誌が選んだ640人とSNSリンクトインでつながっていた人物として注目されました。

 リフキンの座右の銘が「私は弱いつながりの強さを信じる」というもの。橘玲氏の著書『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社)でもこの点が注目されています。

知り合い程度の「弱いつながり」

 同僚や友人から信頼や絆を得る「強いつながり」ではなく、ちょっとした知り合い程度の「弱いつながり」の強さ。米国の社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に提唱した考えなのですが、現代社会でも応用できるというのです。

 この点を調べるテストとして、転職したばかりの専門職や管理職の人に話を聞き、仕事の有益な情報や問題解決のヒント、転職のきっかけをどんな人から得ているのかを探りました。

 すると、家族や友人など強いつながりから情報を得ているのが17%、弱いつながりからは28%という結果になったのです。意外と言えば意外な結果です。

 これは、強いつながりの絆や信頼の代わりに、弱いつながりは「橋渡し」の役割を果たすということからきているようです。弱いつながりは「仲良し」ではなく制約のない関係なので、異なるネットワークや価値観に触れる機会が多く、転職のきっかけや新たな気づきを与えてくれるということです。強いつながりというのは、同じ価値観や状況の人が多いのは事実でしょう。

 また、強いつながりは仕事の紹介や転職を勧めることに責任が伴いますが、弱いつながりは情報の橋渡しをするだけなので、前者よりは気楽な部分もあります。このような軽やかさも、有益な情報につながりやすい要因ではないでしょうか。

 前述のリフキンは「ギバー(人に与える人)」の精神を持っており、思いやりをもって質問をし、辛抱強く話を聞くという特徴を持っていました。そうした高度な人格の上に弱いつながりがあったので、よりつながりは増え、有益な情報を多く得ることができる状況になったのです。

 単純につながりを持つだけではなかなか効果は得られませんが、偶然生まれたつながりがどこでどう活きるかわからないと考えるなら、やはりできる限り誠実に人に応対する必要があるのは間違いなさそうです。そして強いつながりと弱いつながりを使い分けることが、このSNS社会をポジティブに活用し前向きに生きる足掛かりとなるのではないでしょうか。
(文/堂島俊雄)