昨年9月、アダルトビデオ出演を知りながら女性をプロダクションに紹介したとして、スカウトグループの男が逮捕されました。
スカウトグループの代表の男は、自らを「日本一フォロワーが多いスカウト」などとかたり女性にアプローチしていたといいます。ありがちな詐欺行為ですが、例え騙せたとしてもそうそう逃げおおせるものではないでしょう。
6万人分のアカウントを7万円ほどで…
この事件で注目されたのが、「日本一フォロワーが多いスカウト」を騙る根拠です。この男はTwitterに6万人あまりのフォロワーがいたようです。一般人としてはかなり多い方と考えていいのではないでしょうか。それなりに名の知れた人物ということでしょうか……。
実際は、この6万人ものフォロワーは「6万人分のアカウントを7万円ほどで購入していた」とのことです。この男は決して有名でフォロワーの多いスカウトなどではなく、人数を極めて水増ししたインフルエンサー“もどき”だったというわけです。
世間はこの事件よりも「フォロワーってそんなに安く買えるんだ」「この情報のほうが事件よりすごい」「安く買えるらしいってのは知ってたけど6万人を7万円代まで安かったのは意外だった」など、ネット上でも驚きの声が溢れました。
その後このニュースが多く報じられることはありませんでしたが、この「フォロワー買い」の事実は、多くのインフルエンサーやYouTuberにとって疑問を醸すものとなりました。特に有名でもないYouTuberが「100万人登録」や「20万人フォロワー」という形でメディアに出る機会も多いですが、こうしたフォロワーを安く購入できるということは、その価値に首をかしげざるを得ないのです。
とはいえ数字の力はバカにできません。フォロワーの多いインフルエンサーの発言や思考はやはり大きな影響力がありますし、彼らを信じて注目してしまう人は非常に多いのです。もちろんちゃんとしたインフルエンサーもいますので、一概には言えませんが……。
「有名人がCMで紹介している商品を買う」
「フォロワーが多い」という際立った特徴に思考が引っ張られ、その発言や行動を肯定的に捉えてしまう傾向が人間にはあります。これは「有名人がCMで紹介している商品を買う」という思考と同じで、行動経済学や広告戦略の用語で「ハロー効果」といいます。
ハロー効果は有名人やインフルエンサーなど「際立ったポジティブな特徴」に注目し、無関係な他の部分でも「この人だから」と信頼を抱いてしまう思考バイアスで、日々の生活の中でそこかしこに存在します。このバイアスによって不要な買い物をしてしまう場合も多々あるはずです。
ハロー効果は「憧れ」により生じるという説もあります。人間の行動を研究した著書『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(誠信書房)では、有名人や魅力的な人物が所有したり紹介したり絶賛したりするものを自分が持つことで、憧れた彼らに「なる」ことを望んでいるとも論じられています。これは、人は根本で成長を求める生き物であることに由来しており、自己を強化したり不完全さを埋めたいと考えるからこその思考と言えるでしょう。
インフルエンサーのように「たくさんの人が集まる人物」というのは、それだけでも多くの人の憧れの的になりやすいということです。しかし、その力が「安価で購入できるもの」だとするならば……やはり鵜呑みにすべきではありませんし、彼らの商品紹介や考え方ではなく、一度立ち止まって自己判断する力を身に着ける必要が増しているように思えます。
(文/谷口譲二)