日本の消費は年々減少傾向にあり、2020年の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は1カ月あたりの平均でみて27万6167円(総務省発表)で、前年の4.9%減少するなど、冷え込みがなかなか改善しません。
2020年は新型コロナウィルスの影響があったことは確かですが、消費の冷え込みはずいぶん前から騒がれていたことであり、国民の賃金が上昇しない原因も含め、なかなか簡単に解決できる問題とはいえないでしょう。
格差社会で経済的に豊かになる人
一方で、格差社会ということで経済的に豊かになる人も少なくありません。2020年の調査によれば、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると132.7万世帯との推計も出ています(野村総合研究所)。安倍政権時の経済政策「アベノミクス」が始まった2013年から増加を続けています。
大多数の一般人には夢のまた夢の資産額ではありますが、億単位でなくとも、金融資産を数千万円単位で保有している人は世間から見れば「リッチ」に映ることでしょう。そのくらいの資産を持っている人は、収入のみならず親からの相続なども含めれば意外と多いということです。
お金持ちをわかりやすく表現するのが「高級外車」や「ブランド物のバッグ」「高級タワーマンション」などでしょうか。ポルシェ、メルセデス、ベントレー、フェラーリ、マセラティ、ロールスロイスなど、都市部であれば街中で多く見かけることができます。東京都内などを歩くと「こんなにポルシェに乗っている人が多いのか」と驚くほどです。
行動経済学で見る「高級志向」
前述で紹介したブランドの車の多くは1台1000万円を軽く超えるものであり、中古でも価格が落ちないため、資金的余裕がないととてもではないが手が出せません。ローン購入もあるでしょうが、それなら無理せず半分以下で買える国産車に、となる人が多いのではないでしょうか。
しかし、“あくまで移動手段”と割り切らず、合理性などは無視して「どうしても外国車に乗りたい」という志向の人もまた、少なくはありません。
人は単に合理性などで動くわけではありません。経済学に心理学を織り交ぜた行動経済学の観点では、こうした「高級志向」に関する研究も行われています。
まず、高級な車などは基本的に「希少性」があります。日本全体で見れば道を走っていても同じ車に出会う確率は、国産のトヨタ・プリウス、スズキ・スイフトなどに比べれば非常に低いです。
この希少性の上に高額な価格が相まって「特別感」が生まれるというわけです。
また、その車が希少で高額であることを「世間の多くの人が知っている」という点も重要でしょう。その認知度によって「その商品を手にすることの価値」が見出されます。
そもそも人は「人と同じものを避ける傾向」があります。「他人とは別でありたい」という人の行動を「スノッブ効果」と呼びます。だからこそなかなか手に入らないモノに人は魅了されるのです。
そして、高額であることや希少であることなど日々の合理性とは別の点に価値を抱くことを『ヴェブレン効果』といいます。手の届かない価格の商品という社会認識が、消費者の自己顕示欲を満たすというわけです。
一方で、人間は同じ行動をとろうとする生き物(バンドワゴン効果)ではあるのですが、消費に関してはいかに「他者との違いを出すか」という点が重要なのかもしれません。お金持ちであれば特にその傾向が出るということですね。
平均年収がダントツで高い東京都内の国道でポルシェが何台も通り過ぎるのを見ると、多くのお金持ちの行動原理や行き着く先は同じ、という印象も抱きますが……。
(文/田中陽太郎)