常日頃、テレビやネット上を見るすべての人には極めて多くの「情報のシャワー」が降り注いでいます。
それは政治や経済、スポーツに芸能といった「報道」だけではなく、プロモーションや広告などの「宣伝」も、毎日大量に見聞きすることになります。
思考を「誘導」「扇動」
ただ眺めているだけでも、いつの間にか情報に思考を「誘導」「扇動」されることもあります。プロパガンダとはそういうもので、極めて複雑かつ巧妙に張り巡らされているのです。
とはいえ、そのような大きな話をしてもピンとこないのは当然です。ただ、日常でのわかりやすい例はあります。
それがテレビショッピングやネット広告です。テレビなら番組の合間に放送され、ネット広告は眺めるウェブサイトのそこかしこに掲載されています。
こうしたテレビショッピングやネット広告には表現の規制や決まり事も多く、以前ほど虚偽に近いような表現や起債は減少した印象です。ただ、今もなお規制の範囲内でも巧みな宣伝は行われています。
数字と合理性で判断される経済学と、合理性の中には収まらない人間の心理学をシンクロさせた「行動経済学」には、こうした広告マーケティングの手法についても触れられています。広告マーケティングでは、人間が物事を瞬間的に判断するためのヒント「ヒューリスティック」が用いられます。
ヒューリスティックは個々人の経験などから、目の前のモノをどう判断するか、というものでしたが、広告ではこれが強く反映されます。馴染み深いものでは「有名人が広告塔をしている商品は信頼しやすい」「テレビCMで大量に流れて記憶に定着している商品は信用してしまいがち」などといったものがあります。
テレビショッピングやネット広告でも上記のような手法は使われていますが、細かいものではまだまだたくさんあります。
「代表性ヒューリスティック」
例えばテレビショッピングで「このサンプルを試した6人中5人が〇〇エキスの効果を実感!」といったようなフレーズは、多くの人が聞いたことがあるかもしれません。この話を聞いて、もし少しでも商品に興味があった場合「6人中5人なら効果が確実だし買わなきゃ」となるかもしれません。5/6というインパクトはそれなりに大きいですよね。
しかし少し考えると「6人のサンプルってそもそも少なすぎる」ということに気づきます。仮に1000人中970人に効果があった商品なら、詐欺でもなければ「それはすごい結果」となりますが、6人ではいくらでも例外はあるように思われます。
こうした少ないサンプルしかないのに確率を信じてしまうことを「少数の法則」と呼びます。この例に代表されるように、物事の一部を見て判断したり正しく計算すれば出てくる本当の確率を無視してしまう傾向が「代表性ヒューリスティック」と呼ばれるものであり、通信販売等で多用される手法です。
この話を聞いて「こういう広告には惑わされない」という意見もあるでしょう。しかし、実際の通信販売などでは「あと1時間以内にご契約なら表示価格の50パーセントoff」と、時間的な圧迫(タイムプレッシャー)で判断能力を鈍らせ、さらに基準となる価格よりも値下げしてより安く感じさせる(アンカリング効果)など、多様な手法で消費者にアタックを仕掛けてくるのです。
詐欺でさえなければ、本人が「買いたい」と心から思った商品を購入することを否定できるはずがありません。しかし、こうした手法をある程度知識として入れておくと、巷にあふれる広告や興味のある宣伝に対する見方、感じ方が変わるのではないでしょうか。
(文/谷口譲二)