「個人の時代」といわれて久しい現在。サラリーマンなど「雇用されること」に対する疑問も決して少なくはありません。
一歩踏み出し、挑戦する人へ
インターネット、スマートフォンの普及もあり、会社を起こしたり事業を開始するハードルやリスクも初期費用の低下とともに下がりました。ネット社会は簡単に国内を飛び越え海外とつながれるため、やり方次第では事業の選択肢は無限ともいえます。労働集約型であり、個人の能力ややる気がダイレクトに収入に結び付く機会も増えたように思います。
しかし、どれだけハードルが下がっても「起業に踏み切れない」「やりたいことはあるけど、安定を失うことが怖い」という人が大多数。結局のところ、一歩踏み込まないと成功や自由というのは手に入らないものです。
とはいえ、一歩踏み込んだのに想像していたような結果が得られず困窮、最終的に将来が瓦解するという例は決して少なくありません。
「会社をやめないほうがよかった」「ある程度安定して、休日に趣味をする生活が本当によかった」と、自らの選択を後悔したり、時代性や周囲の環境などを言い訳にして後ろ向きな生き方に変化するのは、決して幸福とはいえないでしょう。
日本全体は少子高齢化でダウントレンドが叫ばれており、新型コロナウィルスなど未曾有の事態もあって経済も不透明。そんな状況では「安定優先」になるのは正解でしょう。
一方で消費増税、コロナ禍の雇用調整助成金などの影響から今後雇用保険料の増加なども検討されており、サラリーマンの収入もなかなか上がりません。日本の会社員における高収入ラインといえる「800万円~1000万円」も2018年から税金の“狙い撃ち”を受けるなど、思っていたより生活は楽になりません。国に対する不満が出るのも当然ですが、有能かつ気骨のある政治家が現状をひっくり返さない限り、なかなか是正とはいかないはずです。
安定を優先しても楽にはならず、起業をすれば失敗と後悔のリスク……多くの就業世代は八方ふさがりにいる状況です。
それでも、そんな状況をブレイクスルー、不安やリスクも承知で会社を飛び出し、自分自身で稼ごうと思う人に、あくまで心意気という意味ではありますが、知ってほしい考え方があります。
それが「ストア哲学」です。
結果は自分の選択や行動によるもの
ストア哲学とは、BC330年からBC27年(現在はさらに以前からという説が有力ですが)の「ヘレニズム時代」に出来上がった哲学です。
創始者ゼノンが「幸福は徳を追求した結果得られるもの」とし、パトス(激情、情熱、情念)に動揺しない「不動心」を得ることだと結論づけています。「知恵、勇気、正義、節制」の4つを徳とし、対義となる悪徳と戦うこと、その知識を磨くことの重要性を説いています。
それは「今の自分に生まれたことを受け入れ、その定めを運命とする」ということ。それによってアパテイア(心の平静)を得るということです。
自分の運命を受け入れて堂々と生き、理性で感情を制御し、徳を積む。そう簡単なことではありませんが、この時代にストア哲学はローマのエリートなどにとって重要な指針となり、現在もその考えは残っています。
あらゆる運命を受け入れること、すべての結果は自分の選択や行動によってもたらされるということをしっかり受け止められることは、いわゆる起業や、会社を飛び出して個人で生きていく上では重要な資質といえるでしょう。周囲の環境や時代に責任を求めず、自分自身で完結し現状を見据えることは、メンタル面でも不可欠といえます。もちろん、簡単にその心理になれるわけではないと思いますが……。
もし今、会社を辞めて個人でやっていく気持ちをお持ちの方は、一度このストア哲学を学び、自身のメンタルや志向性にその要素があるか、という点に着目するのもアリかもしれません。
(文/田中陽太郎)