新型コロナウィルスの蔓延からすでに2年以上が経過しました。あまりにも突発的に世界中がパンデミックに陥ったため、経済的な影響は個人も世の中全体も非常に大きなものとなりました。
約7割「有事の計画は機能しない」
日本でコロナ禍が始まったのは2020年2月でした。唐突な出来事だっただけに、極めて多くの企業が影響を受けました。ただ、日本はもともと地震など自然災害が多い国であり、多数の企業が有事の際の事業継続計画(BCP)を作っていました。PwC Japanの調査では、218社回答のうち72%がBCPを用意していたとあります。
しかし、このうち32%が計画が「うまく機能しなかった」と回答したようです。コロナの蔓延など予言できる人はほぼ皆無でしょうが、有事の際の計画を立てても、思ったような結果を残せない場合も多々あることがわかります。
ここには「楽観的な計画を立ててしまいがち」という人間の傾向が見え隠れします。行動経済学の権威であるダニエル・カーネマン氏は著書『ファスト&スロー』(早川書房)でこの傾向を「計画錯誤」と名付けています。
知らず知らずのうちに計画やコストを過小評価し、うまくいく可能性を過大評価してしまう……そこには希望的観測や、最悪の事態を想像することそのものを拒否する心理が絡んでしまい、それが計画錯誤を生み出します。
日本でも似たような言葉があります。第二次世界大戦中に要職に就き、伊藤忠商事の会長などを務めた瀬島龍三氏は「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」という言葉を残しています。これは軍隊での教えとのことですが、つまり人間は往々にして“逆”の状態になりやすいということです。
「挑戦をしなくなるリスク」
有事の際の準備、つまり「リスク・マネジメント」と言われる考え方ですが、これはどんなに考えても考えすぎということはありません。そして、どんなに考えてもすべてをカバーすることはできず、思いもよらぬトラブルは起こるものです。
そのようなリスクへの向き合い方として、特に日本ではよく見逃されてしまう部分があります。それが「挑戦をしなくなるリスク」です。
コンサルタント深津嘉成氏の著書『予測不可能な時代に先手を打つ リスク大全』(インプレス)には、リスク・マネジメントをすることがチャレンジの足かせになると指摘しています。
現在はあまりにも変化が激しい時代です。本来であれば変化しようとすることこそリスキーと見られがちですが、現代ではリスクから距離を置くことがリスクを増大することにつながりかねません。“柔軟性”は現代でもっとも重要な資質と言えるでしょう。
以前から使われている「PDCAサイクル」ですが、深津氏は「Check(評価)」と「Action(改善)」の重要性を同著で語っています。一方、このC・Aもその前の「Do(行動)」がなければそもそも成り立ちません。やはりチャレンジや変化への対応は、有意義にサイクルを回すために必要な動きなのです。
リスクについて深く考え続け「攻撃(変化とチャレンジ)は最大の防御」を忘れない……企業も個人もこのバランスを常に見続ける必要がある時代と言えるでしょう。
(文/谷口譲二)