「私はちょっと外出してきますが、ここにある箱の中を開けてはいけません。いいですか、絶対に開けてはいけませんよ!」
ある箱を目の前にして、あなたの知り合いがそう言って外出した場合、どう思うでしょうか。より一層その箱の中身が気になるのではないでしょうか。
「心理的リアクタンス」
浦島太郎における「玉手箱」や鶴の恩返しにおける「のぞいてはいけない部屋」もそうですが「やってはいけないこと」を明示された登場人物は、結局その禁を破ってよからぬ結末を迎えてしまいます。
多くの人間は、社会心理学的に昔話の登場人物と同じ傾向があります。本来持っている選択や行動の自由を制限された時、その自由や権利を回復しようと抵抗する、これを「心理的リアクタンス」といいます。
「心理的リアクタンス」は日常の多くの場面で見受けられます。学校などは顕著な例で「スカートを短くしてはいけない」「タバコを吸ってはいけない(これは法律もそうですが)」などのルールを示されれば示されるほど反発する学生は少なくありません。
他にも「マンガじゃなくて小説を読むべき」という親から子への意見、会社で「仕事のやり方を変えればもっとよくなる」と先輩から後輩に伝えられ、それが意に反するとして逆の行動をしてしまう例は多いです。これらの多くが「心理的リアクタンス」によるものとされています。
こうした「本来ならば相手のことを思っての言動が逆に相手の心を閉ざしてしまう」というパターンは決して少なくありません。「心理的リアクタンス」を理解していないと、先輩のアドバイスは無効化、後輩の成長の機会も損失と、いいことが一つもない状況もあり得るということです。
また「心理的リアクタンス」を引き起こす要因として「希少性」というものがあります。
米国の著書『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(誠信書房)では、この「希少性」に関し細かな記述があります。
手に入らないものに対する「幻」に固執する
同著には「あるモノに関し、獲得しづらい障壁を生み出すことでより魅力が増大する」と記されています。よく広告で「特別限定仕様」「期間限定」などのワードが散見されますが、それもその一つです。
例えば、仮にある人気のジャガイモがなかなか手に入らなかった場合、人は「そのジャガイモはきっと素晴らしい食品に違いない」「誰かが買い占めているのではないか」「もう手に入らないかもしれない」など様々な想像を巡らせます。
「手に入らないこと」が「素晴らしい商品」であることは理屈上イコールにはならないはずですが、人はいつの間にかそう考え、手に入らないものに対する「幻」に固執することになります。それが「心理的リアクタンス」を引き起こし、人をより強い行動へと導いてしまうのです。
しかし、もしかしたらそのジャガイモが売り切れるのは「あえて入荷数を少なくして売り切れにして希少性を出し、購買活動を促進する作戦」かもしれません……。
「希少性」と「心理的リアクタンス」を巧妙に利用した広告宣伝や売買のテクニックは、多くの人に常々降りかかってきます。そして「本来必要でないものを買わされている」状況が往々にしてあるということです。
『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』では「1.そうした状況になった場合の行動を決めておく」「2.手に入らないものに注意を固執しないよう、手に入りやすいもののことを考える」「3.幻や希少性について生じた感情に疑問を感じ、それを手がかりとして使うこと」と示されています。
なかなか瞬間的にそうした思考になるのは難しいかもしれませんが「心理的リアクタンス」のトリガーが巷に多く存在する以上、意識して損はないはずです。
(文/堂島俊雄)