思考

前澤友作もベゾスも「強運」が最重要?起業家たちの「実力」は錯覚という考え

発行責任者 (K.ono)

 昨年12月8日に、民間人として宇宙に飛び立った、実業家の前澤友作氏。

複数の会社を成功に導く人の割合は1%未満

 前澤氏は「ZOZO」の経営者だったころから「月旅行」「宇宙旅行」を掲げており、ついに実現したということになります。数千億円とも言われる個人資産を考えれば「2人で100億円」とも言われる費用もさほど問題ではないということですが、一般人の想像が追い付かないレベルの話です。

 前澤氏は高校を卒業後にバンドマンとしてプロになり、その後CD等の通信販売からファッション通販に展開、ネットのファッション通販『ZOZOTOWN』によって確固たる地位を築きます。企業の時価総額は一時1兆円超となり、現在はソフトバンク傘下に売却しています。日本有数の「成功者」という点を否定する人は少ないでしょう。

 無論、成功者たちの多くがとてつもない努力をしており、そこにもとあった資質、才能が乗っかっているのは間違いないでしょう。わかりやすく前澤氏を例に出しましたが、国内ではソフトバンクの孫正義氏や楽天の三木谷浩史氏、世界に目を拡げればAmazonのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏など、信じがたいようなビリオネアが存在します。

 さすがに上記の経営者たちはいくつもの事業を成功させた突出した存在と言えるかもしれませんが、少なくとも「次々と会社を成功させる人」というのはなかなか存在しません。世界で見ても、複数の会社を成功に導く人の割合は1%未満という情報もあります。

 もちろん、最初の会社が成功して株を売却、巨額のキャピタルゲインを得て悠々自適な人もいるはずです。しかし、成功する人というのは往々にして意欲が高い人物が多く、成功したからといってじっとしていられない人が多いのも事実です。それでも、複数の会社を成功させた人は非常に少ないのが現実です

 こうした厳しい現実が導き出した答えは、能力や才能、努力やスキルよりも「運」が重要だという悲しい事実です。能力や努力する方法は一度成功した人なら大概は有しているものです。しかし、次々と会社や事業を成功に収められる人はほとんどいません。

「スキルが重要な職業とそうでない職業」

 もちろん多くの成功者たちはそれを認めないでしょう。米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の著書『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)では、現在の米国や先進国は、個人の努力と才能によって成功失敗が決まる「能力主義」の社会であり、成功者は現状を「自分の努力の結果」と考える傾向にあると記されています。そして、それは完全に間違っているわけではないでしょう。

 しかし、教育を受けられる環境(家)に生まれたことや、知能の大きな部分を決める遺伝、会社であれば世界の情勢やトレンドなども含め、やはり時々の「運」の要素を切り離して考えることは難しい部分があります。

 会社経営でなくても、それは言えます。スイスの作家ロルフ・ドベリ氏の著書『Think Smart』(サンマーク出版)では「スキルが重要な職業とそうでない職業」について語られています。世間で高収入ともてはやされる金融や投資のコンサルタントを複数人比較すると、毎年順位が入れ替わり、1位になることもあれば下位に沈むこともあるなど、その結果に大きな差異はなかったという、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の研究を紹介しています。こうした結果から「運の要素が強い職業」と指摘しています。

 またドベリ氏は、パイロットや板金工、弁護士など「明確なスキルが必要な仕事」もあるとして、それらの結果に関しては運の要素が少ないとしています。そういった仕事と比較すると、会社経営などは能力も必要ながら、それだけでは決まらない要素が強いという見解を示しています。

 ドベリ氏はこれを「スキルの錯覚」としています。これはカーネマン氏らが語るところの「自信過剰」ともつながりますが、具体的に見ていくと、決して驕り高ぶるほどの理由はないことが理解できます。こうした思考は、どんなにうまくいっても謙虚でいるために必要ではないでしょうか。
(文/谷口譲二)