思考

アップルもグーグルも…「ナッジのカラクリ」人の心を支配するテクニック

発行責任者 (K.ono)

 内閣府の消費動向調査によれば2021年の二人以上世帯の普及率が88.9%(単身世帯は75.6%)と、日本人の大多数が所有しているスマートフォン。

「デフォルト」

 アップルが開発したiPhoneの爆発的なヒット、その後の普及によって、日本のみならず世界中の人々がスマホを有している。携帯電話としてではなく、高速インターネット端末を誰もが持ち運ぶ世の中になったことで、世界は言葉通り様変わりした。もちろん多くの問題も生んだが、全体を考えれば非常に便利な世の中になった点を否定することは難しい。

 スマートフォンにおけるOS(オペレーティングシステム)の二大巨頭がiOSとAndroidだ。iOSはアップル、AndroidはGoogleが開発したもので、世界のスマホ市場の覇権を握っている状況だ。

 この2社それぞれのスマホには、iPhoneならAppleの検索エンジンSafari、Andoroidスマホなら検索エンジンGoogle(GoogleChrome)のアプリが最初からダウンロードされており、最初から2つとも入っている場合はまずない。会社それぞれの意図を考えれば当然だろう。こうした、あらかじめ選んでほしい選択肢を初期設定にしておくことを「デフォルト」という。

 このデフォルトによって、2社は検索エンジンやさまざまな自社関連サービスに誘導するということだ。売上は別としてシェア自体はAndoroidスマホのほうが上であり、Googleは欧米で独占禁止法、反トラスト法で問題視される場合が多い。

 他にも、携帯電話会社のweb画面での契約で「最初からオプションサービスを付けるチェックボックスにチェックが入っている」「個人情報使用等の同意を認めないならチェックするように」など、ユーザーの手間を失くすと見せかけ、提供側の望む形式に持っていくデフォルトはたくさんある。

 相手に強制させることなく望ましい行動をとらせる手法の総称を「ナッジ理論」という。この手法は近年とりわけ注目を浴びるようになった。

直感(ヒューリスティック)

 ナッジ理論の代表例がデフォルトではあるが、必ずしも悪い手法というわけではない。

 好例として「Googleは社員食堂で野菜のコーナーを目立つ場所に置き、無料にすることで社員が自然と野菜に手を伸ばし健康的な食生活を送れるようにした」「豪州の臓器提供への意思表示で『同意しない場合はサインを』にした際、同意する人が増えた」など、ナッジの使い方によっては良好な結果をもたらすこともある。

 人間はさまざまな判断を過去の経験則などをヒントにした直感(ヒューリスティック)によって、比較的瞬時にさまざまな選択を行ってしまう生き物だ。

 瞬間的な判断をするからこそ「面倒ではない」ことも大きな判断材料になる。ナッジによってそもそも「面倒な選択(もしくはチェックボックスを埋めるなどの作業)に迷うことがない状態」が作り上げられていたとしたら、思いの外情報やサービス提供側の意図通りに動いてしまうのではないか。

 だとすれば、そのナッジが巧みかつ悪意に満ちたものだった場合、いつの間にか危険な方向に誘導されてしまう可能性もあるということ。こうした知識を入れておくのも、悪くはないはずだ。
(文/玉川剛)