以前より、日本人の幸福度が先進国でも低いほうであることは多くの人に知られているところですが、それは「世の中がよくなる見込みや期待が感じられない」という点が大きいとされています。
冷笑的(シニカル)な考え
高度経済成長という上り調子やバブルの絶頂までは、世の中が沸き立っているのが感じられた人は多かったはずです。しかしバブル崩壊、経済停滞、リーマンショック、東日本大震災、さらには新型コロナウィルスのパンデミックなど世の中に衝撃と不安が30年近く蔓延したことで、希望を見出すのが難しい世の中になったのは否定できません。
そんな中では「がんばるだけ無駄」「努力しても報われない」といった無気力や斜に構えるような思考の人が増えるのも致し方ありません。複数のアンケートで高校生のなりたい職業1位が公務員になるのも、不安や冷めた思考が少年世代にも浸透している証明と言えるかもしれません。
しかし、単なる冷静ではなく、それが皮肉的、冷笑的(シニカル)な考えまでいくと、決して本人にとって+になるとは限りません。多くの著名な学者の研究をまとめた書籍『「バカ」の研究』(亜紀書房)では、こうしたシニカルな考えに警鐘を鳴らしています。
「●●、あれはインチキだよ」と短文で返す
著書のタイトル通り「バカ」に関する研究をまとめたものですが、その中に「シニシズム的不信」があります。
これは、前述のシニカルな思考は「バカ、あるいは大バカ野郎」が並外れてとらわれやすいものだとしています。
同著によれば、バカは現代社会や政治に対しシニカルになりがちで、何を尋ねても「●●、あれはインチキだよ」とでもいうような短文で返すとしています。確かにそういう人はそれなりにいるかもですが……。
こうした人は真面目に生きる人を小心者と蔑み、上から目線で批判するものです。しかし本人はといえば、疑り深く屈折した思考のせいで、社会で飛躍するための機会を逸することが多く、低収入で暮らす道筋に至ることが多いと言います。
モノの見方に極端なバイアス(偏見)がかかっている
確かに冷笑、皮肉屋というのは他者を遠ざけますし、生活の中でめぐり合うヒントやアイデアもバカにしたり見て見ぬフリをするものです。それは本来バカにしている真面目な人々よりも臆病ということの何よりも証明です。
同著における「バカ」とは、あらゆるモノの見方に極端なバイアス(偏見)がかかっている人物のことを指します。
しかし、しっかりと物事を俯瞰(メタ認知)し、偏見や差別などバイアスを排除し、冷静な判断が常にできる人などそうそういるものではないでしょう。この同著における「バカ」は、誰にも当てはまる部分があるということです。
何か仕事でミスがあった時に、明らかに自分の失敗でも別の原因を探したり、起こった何かしらのトラブルに対し、起こした人の性格やイメージで判断したりしないでしょうか。絶対にそんなことをしないと断言できる人がどれほどいるのか……。
今の世の中を考えれば、冷笑的になってしまうのはある程度仕方のないことです。しかし、それが過剰になることで失うものは決して少なくはありません。人間は時としてバイアスに支配された「バカ」になり得るということを意識することは、少ないチャンスを活かすために必要なことと言えるかもしれません。
(文/苫小牧陽一)