思考

特殊詐欺被害の「傾向」と元バルサ・シャビ選手の教え? 「首振り」の意味と注意の焦点化

発行責任者 (K.ono)

 振り込め詐欺、オレオレ詐欺といった「特殊詐欺」が世間に浸透して、すでに20年近くが経過しています。

2020年被害額は285億2千万円

 2003年2月に検挙された「オレオレ詐欺」によって世間に知れ渡った特殊詐欺ですが、警察庁の発表では、2020年特殊詐欺統計の確定値で被害額は285億2千万円と巨額。減少傾向にあるとはいえ、いまだその被害の大きさは深刻なものです。

 最近では「週刊新潮」(新潮社)などが報じた、外国人男性が日本人女性から金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」が話題になりました。出会い系サイトなどで外国人男性と女性が知り合い、婚約者などのように振舞って金銭を送金させる詐欺です。種類は多種多様で警察側も常にマイナーチェンジを続けなければいけません。

 被害を受けたことのない人からすれば「なぜそんなことに騙されるのか」「自分だったら騙されない」と思う人が多いに違いありません。「誰でも騙される可能性はある」「本当に巧妙なので誰しも油断できない」と言われても、そこまで真剣に受け止める人は多くないのではないでしょうか。

 ただ、こうした注意喚起は的を射ています。人間の真理や傾向から考えると、こうした被害に遭う可能性はやはり否定できません。

 詐欺被害につながる人間の傾向の一つが「注意の焦点化」です。

シャビの「首振り」

 注意の焦点化は、人間が常日頃から視覚、聴覚などから受け取る「刺激」に関連します。例えば自動車を運転している時にスマホを触るのは違法ですが、それは注意がスマホに向かって自分が運転する車の周囲に注意が向かなくなるからです。これはわかりやすい例ですが、人間は一度に多くの対象に注意を向けることが難しく、それだけ視野が狭いということです。

 2010年代にサッカー界を席巻したスペインFCバルセロナの主力選手にシャビがいました。彼は正確なパスを正確なタイミングで正確なスペースに供給し、試合全体を支配することに長けた天才プレイヤーです。あまりにも視野の広いプレーで世界から恐れられた彼ですが、それでも優れた判断力や勘だけで異次元の働きをしていたわけではありません。彼は1試合で実に500回以上も「首振り」をして周囲の状況を確認し、スペースを探していました。その上で判断や問題解決力を発揮し、メッシ選手やイニエスタ選手にベストなボールを供給し続けたのです。

 逆に言えば、シャビ選手ですら「直感や経験則だけで優れたプレーができるわけがない」ということです。直感は思った以上にアテにならず、注意が限られた部分にしか向かないからこそ、信じがたい回数の「首振り」で状況確認を続けなければ、ベストなスポットを見つけられない……シャビ選手はそういった点を深く理解していたのかもしれません。

 特殊詐欺で有名なオレオレ詐欺では、息子や孫を装って「ヤバい事故を起こした。お金を払わないと解決できない」といった理由をつけて、高齢者などから金銭を振り込ませようとします。

 少し冷静になれば「そもそもおかしい」という部分が色々とわかるものです。しかし当事者からすれば「(息子や孫が)ヤバい事故を起こしてしまった」というインパクトの大きな部分に注意を集中させてしまうのです。それが唐突な連絡だけに、咄嗟の注意はより一部分に向いてしまいます。

 こうした人間心理を考えると、特殊詐欺を撲滅するというのはなかなかに難しい部分があるのかもしれません。「冷静な状況判断を」と注意喚起されたところで、人間の認知の歪みや傾向は簡単には治りません。

 だからこそ、せめて「自分も騙されるかもしれない」と念頭に置くことはやはり重要ではないでしょうか。上記の傾向を知れば「自分は大丈夫」と楽観視することはできないように思いますが……。
(文/谷口譲二)