社会

日銀総裁「家計が値上げを受け入れている」年収400万円が高給取り時代に生きる術とは

発行責任者 (K.ono)

 6日、都内で「共同通信きさらぎ会」が開催され、講演をした日本銀行・黒田東彦総裁に批判が集まっている。

 黒田総裁は国内の商品やサービスが値上がりしている点に関し「家計が値上げを受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、賃金の本格上昇につなげていけるかが当面のポイント」と発言したと「女性自身」(光文社)は報じている。

「年収400万円以上なら高給取り」時代

 原油価格高騰、円安、ウクライナ戦争などの影響で多方面のサービスで値上げが起こっているが、国民の賃金はほぼ横ばい。この状況下で「よくもそんなことが言えるものだ」「誰が受け入れているのか」などと反発が強まっている。

「老後資金2000万円」「生涯現役」など、日本では将来の収入や資産確保の話題が後を絶たない。

 その最たる理由には、働く人々の収入に関する厳しい現実が横たわっている。『民間給与実態統計調査』(国税庁・令和元年)によれば、給与所得者の1人当たりの平均額は436万円(男性540万円、女性296万円)である。

 12カ月で割ると、月平均収入は36万円で、手取りは30万円を切るくらいだ。今は共働き世帯も一般的になっているが、仮に片方しか稼ぎがない場合、家族を養うには心もとない金額といえる。人口比では300万円超400万円以下の900万人ほどで全体の17%だ。男性のみであれば400万円超500万円以下の割合が最多ではあるが、それでも家計は楽とはいえないだろう。

 数字上、今は「年収400万円以上ならそれなりの高給取り」となってしまうわけだが、その層にいる多くの人が高給を実感しているということはないだろう。

 この10年ほどで社会保険料の負担率は一人あたり26%上昇し、賃金は3%しか上昇していない。これでは収入上昇の実感などゼロで、それぞれの勤労意欲にも直結してしまう。

 働くことのできる人口が減り、高齢者が増加している今の日本では当然の帰結(2040年には現役世代1.5人で老人1人を支えるという試算もある)であり、今後も消費増税や社会保険の負担増加はあっても減少の見込みは薄いだろう。

「見込みの薄い他力本願」

 また、将来的にもらえる「年金」も、このままとはいかない。年金がゼロになるのでは、という声もまことしやかに語られているが、それは国家滅亡レベルの出来事といえるので、さすがに想像しがたい。しかし、今高齢者が受け取っている年金より厳しい金額になることは覚悟しなくてはならない。

 5年に1度行われる年金制度の検証において使われる「所得代替率」というものがある。平均年収を得た夫と専業主婦の妻で40年間過ごし、厚生年金に同じ期間入っていたと仮定して、その時点の現役世代の平均手取りの何%が支払われるか、というものだ。

 2019年は、現役手取り平均額が35万円ほどなのに対し、老夫婦の年金は約22万円で「約61%」。それほど悪くもないように見えるが、今後この所得代替率も低下していくとされる。20年後、高齢者や女性の長期的な働きが社会に浸透しても50%程度に下落、そうした社会施策が何もうまくいかなかった場合、将来的に40%を割るという考えもあるのだ。現役世代の賃金が増えない状況を考えると、これでもまだ楽観的とすらいえるかもしれない。

 今後の社会システムにおけるほんの一部を語っただけでも、人口減や高齢化による現役世代の将来がなかなかに厳しいことがおわかりいただけるはずだ。

 無論、「自国通貨を発行している限り、どれだけ財政赤字が膨らんでもハイパーインフレなどは起こりえない」というMMT(現代貨幣理論)という経済理論から、最近注目されるベーシックインカムが実現する可能性もゼロではない。しかし、それには財務省や政治家の変化が必須であり、そう簡単に変革できるものではない。黒田総裁の発言からはそうしたイメージは湧きづらいものがある。

 一般人にとって政治などへの期待も「見込みの薄い他力本願」といった状態だが、では個々人でできることは何か。

「投資」も視野に入れるべきか

 やはり、これまで当たり前と思われていたものの「見直し」だろう。民間の生命保険や医療保険などがその最たる例だ。日本の国民健康保険や組合健保などは非常に充実しており、仮に亡くなっても遺族年金なども存在する。それだけでは足りない、というのももっともだが、そうした制度と保険を照らし合わせて考えている人がどれだけいるか、というのが大切なところだ。将来不安を考えれば、保険に払うより老後に回すのも選択肢といえるのではないだろうか。

 超低金利時代を考えれば、単なる預貯金を続けるだけではなく、「投資」も視野に入れるべきか。

 ただ、個別株の変動に一喜一憂したり、FXや仮想通貨に手を出すのはやはりギャンブル的だ。日経平均やダウ平均などに連動した投資信託である「インデックスファンド」が、まだ手を出しやすいだろう。預貯金よりはもちろんリスクはあるのだが。日本はともかく米国株であればここから数十年は堅調のはずで、今後も上昇の見込みは十分にある。とはいえ、預貯金をコツコツ貯めていくというのを否定するわけではない。

 今はNETFLIXなどの動画配信サービスもあり、家にいながらさまざまなエンターテインメントを楽しむことも可能になった。それはつまり「お金を使う必要性が薄くなっている」ということでもある。

 いずれにせよ、これまでの個々人の“常識”を見直すこと、お金を不必要に搾取されないことなどが、将来に備える第一歩といえるかもしれない。
(文/堂島俊雄)