2020年から続く新型コロナウィルスの蔓延は、世間では将来不安や不確かな未来への恐れを表面化させました。
「短期で儲かるかもしれない」という誘惑
そんな状況に対する世間の動きとして一つあったのが「投資への関心」でした。仮想通貨、インデックスファンドなど、これまで投資に興味がなかった多数の“投資ビギナー”が生まれました。
無論、浅い知識のせいでハイリスクな投資で失敗したり、銀行や証券会社、あるいはセミナーの講師あたりの言う通りに購入して手数料を抜かれたりと「無知」ゆえに損をしてしまう人も決して少なくはありません。
ただ、そもそもの確率などを見誤り“行動原理”から間違えている人が多い、という指摘もあります。
イタリアの経済学者マッテオ・モッテルリーニの著書『世界は感情で動く』(紀伊國屋書店)でも、投資に関する人間の傾向や確率の考え方に対する記述があります。
同著では、イボットソンアソシエイツの1926年~2000年の長期間を対象にした調査で「5年間米国株を保有して収益をあげられる確率は90%、15年なら100%」という結果を紹介しています。そもそも株というのは長期保有によって収益を得ることを目的としたものということです。
ただ、あくまでもこの結果は「5年~15年の長期間の保有」を軸とした調査によって得られた高い成功確率です。この数字が「短期の保有」でも成り立つのかといえば、決してそんなことはありません。これが仮に半年の調査では同じ結果が得られるかといえば、それはまったく話が違います。
しかし、こうした「短期で儲かるかもしれない」という誘惑はそこかしこに存在します。広告宣伝をする側の気持ちになれば簡単に理解できますが「15年持てば儲かります!」と言われてもピンときません。「短期的で効率的に収入を得よう」というようなニュアンスのほうが、一般消費者には伝わりやすいのです。将来よりも今を優先する「現在バイアス」が人間の心理に働きがちということです。
少ないサンプルによって得られた確率
ただ「短期的で効率的に収入を得よう」というような甘い話はなかなかありません。仮に投資などは長期的なものであれば成功確率が高いと理解していても「短期でも同様の結果が出るのでは(実際にそうした結果が出ることもあり、宣伝ではその事実が推されることも多い)」と思ってしまうのが人情。こうした、少ないサンプルによって得られた確率を「少数の法則」と言い、長期的調査によって偶然ではなく信頼に足る平均が示された「大数の法則」に対する言葉として存在します。
「少数の法則」では、その事象に関する本来の確率や信頼できる数字は見出せません。しかし、たまたま短期的に成功した例を「これが平均」と直感的に思い込んでしまいがちなのです。広告宣伝などは特に「少数の法則」を殺し文句に使うことも多いため、注意が必要になります。
こうした傾向はギャンブラーに顕著です。パチンコや競馬等で連続で大儲けし「これが実力だ!」「俺には才能がある」と思い込むこともあるでしょう。実際はその多くが偶然であり、実力とは無関係です。自分の力の及ばない部分に支配力を感じることを「コントロール幻想」と言いますが、少ないサンプル(連続的中)を実力や確率の高さと勘違いするのもまた、少数の法則と同じ原理でしょう。
少数の法則は、投資などを代表例に時に大きな損を生み出す人間のバイアスです。導き出された数字がどれほどのサンプル数を元にしているのか、魅力的な数字や確率であればあるほど確認をすべきということです。
(文/堂島俊雄)